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小説ZS<海賊>
約束はダンスの後で5

サンジはイライラしていた。
早いとこケリをつけて後夜祭に行きたくてたまらない。すでにダンスは始まっており、喜びを表すような軽快な音楽が流れている。
なのに自分は薄汚い、変な道具がいっぱいおいてある小屋で下衆野郎を待っているのだ。

(おれも女の子とダンスを踊り狂いたい・・・。可愛い、いろんな女の子の手を代わる代わる握れるんだぞ。こんな素晴らしいことってない!)
自分の格好も忘れて、ダンスにかける情熱を心に駆け巡らせていた。今のサンジなら、当然女の子のパートだろうに。
ルフィ達もとっくに輪の中に入って楽しげに踊っているのが見えた。ナミやロビンの手を取ってエスコート出来る、またとないチャンスだというのに。

あーあ。大きくため息を吐いて、布団がぺちゃんこになったような硬いマットレスに腰を下ろす。
あんまり広げるわけにもいかないので、足を閉じてお尻の方のスカートをグイと引っ張る。パンツが丸見えにならないように両手を太ももに回して顎を膝の上に置いた。

(そういえばゾロ、付いて来てたのにいなくなっちまった。)
何で来るんだと訝しんだら、ゾロも奴らに用があると言った。どんな用事だよ。ミヤビちゃんにちょっかい出したあいつらが気に入らねーとか?
そのくせ、ここに向かう途中で振り返ったらいなくなってたのだ。迷子になったんだな。サンジは勝手にそう解釈した。

迷子になるなんていつものことだ。脳も筋肉だから。でも、カフェに向かうときは迷子にならなかったくせにさ。必死こいてついてきたくせに。ミヤビちゃんに会いたかったんだな。

なんだよ・・・エロマリモ、スケコマ芝ヤロウ、むっつり筋肉バカ、バカバカ、ゾロのばかやろぉ・・・。

「ゾロなんか、も、知らねっ。」

鼻をぐすっと啜ったのを皮切りに、目が熱くなってくる。どうしてこんなにゾロのことばかり考えるのか、ゾロと女の子が関わることを思うと辛いのか。
目が潤んで涙が零れそうになっても、サンジは自分の気持ちがわからないままだった。

気持ちが沈みかけていた時、ガラリと小屋の戸が開けられた。サンジがハッと顔を上げると、あの大男がひとりで立っていた。
一瞬、センチメンタルな気持ちを切り替えられず、ぼうっとしたが慌てて立ち上がる。

「遅かったじゃねーか。逃げたのかと思ったぜ。」

挑発するような言葉と裏腹に、涙目で鼻の頭が赤くなっている。男はサンジの顔をじろじろと見ると

「泣いてたのか?」

似合わないおとなしい声で言った。

「泣いてねえ!!とっとと決着をつけようぜ。」

図星を刺され腹を立てながら、爪先をココンと鳴らす。

(しまった。いつもの黒靴じゃねぇんだった。)
制服に着替えたときに、合わせて茶色の編み上げショートブーツを履かされていた。

まぁなんとかなるかと諦めて向き直ると、男は拳を握って真下を見ている。んん?サンジは様子のおかしさに首を捻った。

男は勢いよく両膝を地面につき、両手を揃えて土下座する。

「俺の嫁さんになって下さい!!」

突然、プロポーズの言葉をサンジに投げてきた。

サンジはゆっくり後ろを見る。誰もいない。おれしかいない。再び、首を傾げる。

「おれに言っても仕方ねーだろ?」

ミヤビに言うならまだわかる。許せるものではないが、強引なベッドへのお誘いではなく本気でプロポーズするなら、それは個人の自由だ。

「いや。あんたに惚れたんだ。あんたの腕っ節の強さと料理の美味さに。」

男が少し顔を赤らめているのを見て、おいおい何の冗談だ?とサンジは引いてしまう。油断させる作戦かとも思った。
だが、料理が美味かったと言われたことは素直に嬉しかった。

「パスタが美味かったのか?」
「ああ、最高に美味かった。」
「そうか!・・ありがとな。」

サンジは男に、にっこり笑いかけた。それはそれは嬉しそうにほんわりとお花のように。

「ササササンジさーん!!」
「ぎゃ!!?」

サンジが気を抜いているところに男が飛び掛かってきた。辛うじて対面にはならなかったが、足が縺れて横向きに倒れる。
男はサンジに圧し掛かり迫ってきた。鼻息を荒くして執拗に懇願する。

「お願いします!お願いします!お願いします!」
「ぎゃー!やめろ!離れろ!嫁ってなんだよ!おれは男だぁ!!!」

男がえ?と言ってサンジの顔を見つめ固まったので、わかってくれたと思った。でも。


「サンジさんなら男でも構いません!俺、本気です!!」
「ぎゃああああああああ!!!」

男は諦めるどころか、なおもぎゅうぎゅうとサンジに迫ってきた。必死にもがくが、男の足が絡んで蹴りが出せない。

「変態!てめっ!ミヤビちゃん狙ってたんじゃねーのかよ!」
「あれは、可愛かったんでつい・・・。俺は隣の島から祭りに来ただけだから、知らなかったんだ。あの女のことを。」

含んだ物言いに引っかかる。

「どういうことだ?ミヤビちゃんの何を知らなかったって?」

そう聞く間も男はフガフガ言いながら迫ってくるので、サンジはどうにかこうにか、ずり上がって逃げようとした。

「あの女は・・・。ロロノア・ゾロを・・。」

あまりにも唐突にゾロの名が出てサンジはびっくりした。ゾロをなんだと?問い詰めようとしたが、追い詰められて壁にガツンと頭をぶつけた。

「これ以上は俺の口からは言えません!それより、サンジさん!蹴られた時から好きでした!可愛い姿にもグッときました!(さっきの体操座りも激萌えしました!)パスタを食ってさらに惚れました。どうか嫁さんになって下さい!」

サンジにさらに覆い被さって身体を寄せる。

(ぎゃーーーーーーーー!!助けてー!!気持ちわりー!いやだー!)

気持ちが悪くてたまらず、身を竦めた時、

「「「ゴアアアアァアアアアン!!」」」

何重にも響く鈍い金属音がして、男の頭がサンジの頭に数回ぶつかってきた。
しばし間を置くが、男は動かない。サンジは恐る恐る男の下から這い出して、きょろきょろと見回す。男の周りには金色に輝く、へこんだ大きな金ダライが転がっていた。
上の棚にあったタライがうまいこと頭に落ちてきたのか?何にせよ助かったと服の埃を払いのける。

「・・・急に押し倒してくるようなマナー違反の申し出はお断りだぜ!」

出口に向かい、再度転がった男を見下ろす。

こいつ、昨日今日でマゾのホモ野郎になっちまったんだなぁ。サンジはほんのちょっぴり責任を感じた。


もういいや、早く後夜祭の会場に行こう。
これ以上ひとりでいて、またあの男に迫られる機会をつくってたまるか。サンジはダンスが行われている広場に向かって歩く。

あの男の言っていたミヤビのことがサンジは気になってしかたがない。

(ミヤビちゃんはゾロを・・・なんだってゆうんだ?)
隣の島の者だから知らなかった。ということは島の人間なら「彼女がゾロをどう」なのか知っているというのか?
あ、あれかな?ロロノア・フリーク?ゾロのファン?それくらいだったら別にどうってことないはずだ。
海賊だから海軍だったら良い顔しないだろうけど。

サンジは知ってる。ゾロは結構女性に人気がある。「元海賊狩りでしょう?」と女性がすり寄っていくのを見たこともあった。
そんな時、ゾロに美味しい思いをさせてなるかと、サンジは必ずその女性を口説いた。
サンジが割り込むとゾロは眉根を寄せて、ちっと舌打ちをして去って行くのだ。そして女性もしばらくはお話ししてくれても去って行ってしまうのだ・・・。

ここでサンジは気づく。おれ、ゾロの邪魔して疎ましがられてた?
邪魔したんだから嫌な顔されたり舌打ちされたりして当然なはずなのに、サンジはショックだった。
ゾロは女性に相手してもらおうと思っていたのかな?

・・・だってイヤだったんだ。女の人と何処かへ行ってしまう姿を見たくなかった。負けたくないから。

「だよな?」

自分の思考に問いかけて、サンジは気持ちを探ろうとした。


「てめぇ、なんか企んでんのか?」

ゾロの声が聞こえて姿を探す。

少し離れた雑木林の中、ゾロとミヤビが見えた。思わず身を潜めるように木に隠れてサンジは様子を覗き見る。

「企むだなんて。・・・いいえ。私は何もしていませんわ。すべては理に基づいて進んでいます。」

ゾロの態度ははっきりとしていて、ミヤビに疑いの表情を見せている。普通の小娘だったら震えあがって、口もきけないピリピリとした雰囲気だ。
なのにミヤビは恍惚の表情を見せ、言葉を続ける。

「元海賊狩りのロロノア・ゾロですよね。私、海賊狩りの頃から、知っていました。」

別に隠したつもりもないし、刀3本持っていればわかる人にはわかるだろう。
だが、ミヤビのようなお嬢様然とした娘が、ゾロの素性を本人に突き付けたことにゾロもサンジも驚いた。

「私、ずっと夢見て待っていました。ゾロさんがこの島に来て下さるのを。」

恐れも、恥じらいもなく、毅然とした口調でミヤビは言った。


気が遠くなるような、身体中が冷たくなるような、目眩を感じてサンジは座り込んでしまった。


<6へ続きます♪>

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あきゅろす。
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