「気をつけて帰ってね」 「うん、ありがとう…」 あたしは、美和が呼んでくれた使用人の人の車に乗り込んでお礼だけ言った。それしか言う余裕がなかったから。 美和は心配だから泊まってけと言ってくれたけど、三人が心配だったあたしはそれを断って帰ることにした。元々それが原因で帰ろうとしてたわけだし…。 「じゃあね」 「バイバイ…」 最後に美和が運転手にあたしの家の住所を告げて、お願いねというのが聞こえた気がしたけど。あたしはさっきの出来事が頭から離れないでいた為、その言葉は届いていなかった。 *** 「颯斗くん!愛を傷つけてどうするのよ!好きなら嫉妬ばっかりしてないでちゃんと向き合いなさいよ!」 「お前らしくないじゃん。どーした?」 「…悪い」 美和と和磨に愛から引き離された俺はやっと正気に戻っていた。 あの後、美和が俺の前から愛を連れ出していってくれたからアイツに手をあげなくて済んだ。もし、誰も止めに入らなかったら…、何してたか分かんね。 どうかしてる…。 何だってんだ…。 愛は美和に連れられて家に帰ったらしい。それを聞いて安心した反面、心の片隅で、ハッキリさせなかったことを悔やんでる自分もいる。 「最近、愛と一緒じゃないから不安なだけだろ?」 「ああ…、それだけだ…」 「もう、心配させないでよね…明日ちゃんと謝りなよ?」 「分かってる」 俺の答えに二人は満足したのか笑顔で俺を見返してくれた。だけど、俺にはまだ腑に落ちないことがいくつもある。 最近、知らねぇうちに別の場所にいたり、家にいたはずなのに、愛の家にいきなり来てたり…。 まるで、俺が二人いるみたいで気持ち悪い…。 クシャッ───── その思いを押し込めるように、髪をクシャッとかきあげる。 *** 「綱吉!愛に電話しましたね?」 「だって二人がいきなり言い合いし出すし…ってー!何物騒なもん出してんの!」 「骸君、やっちゃっていいよ」 「貴方に指図される覚えはありませんよ」 玄関からリビングに向かう途中に聞こえる三人の声───。 それに何故だかホッとする自分がいて、あたしは無意識のうちにリビングまで走って飛び込んだ。 バンッ─────── 「「「!─愛(チャン)」」」 三人して一斉に振り返って、あたしの名前を呼ぶもんだから何だか凄く嬉しくて。 「ただいまっ」 「「「?!」」」 気づいたら三人に抱きついてそう口にしていた。怖かった、一瞬でも三人の所に帰れないって、そう思ったとき──。 三人はいきなりの事に吃驚したのか、何の反応も示さなくて─。それは余計にあたしの恐怖を煽る。 「「「お帰り」」」 「!…ただいまーっ」 だけどキッチリはもって¨お帰り¨って言ってくれた。笑顔を返してくれた。 ただそれだけで、あたしの心は満たされるの。さっきまでのモヤモヤした気持ちなんか飛んでいって…。 「同時に言わないでよ」 「それはこちらの台詞です」 「ま、まあいーじゃん。二人とも」 そんな三人のやりとりも見慣れてきたはずなのに新鮮で──。 何か、あたしにとってはもう…、なくてはならない大切な自分の¨居場所¨になったんだって、思い知らされたような気がした。 .... (やはり君とは分かり合えそうにない) (じゃあいっその事、今ケリつけようか) (愛!何とかしてよっ) (えっ) |