夢、なのかな?視界に入る全てが真っ白で、あたしが纏っている服も白いワンピース。何もない空虚なその世界であたしは一人佇んでいる。 そんなあたしの前にあたしによく似た一人の女の人が、ううんあたしが成長した姿とでも言うのだろうか、…いきなり現れた彼女にあたしはただ驚くばかり。 「あたし、後悔してるの……」 ─え? あたしの前に立つ彼女は凄く悲しそうな顔をしてあたしを見下ろし、小さくそう呟いた。それに問い返したはずのあたしの声は響かずに声とならなかった。 何で──?なんて問いは誰かが答えてくれるわけもなく、ただあたしの頭の中をぐるぐる回っていた。 「ねえ、今の貴方は何を迷ってる?」 ─迷い…?そんなの…… 「紫苑ばかりが悪いの?あたしに汚点はなかったの?──誰があたしの人生を狂わしたの?」 ─!…貴方、やっぱりあたし…? 彼女にはあたしの声が届いているのか、返ってきたのは、肯定を示す頷き。これではっきりとしたのは、目の前にいる彼女が少なくとも何年か先の自分であるという事。 だけど、その姿は今のあたしからは想像も出来ないくらいに弱々しくて、今のあたしが頑張っている全てを否定しているかのような瞳があたしに向けられている。 「貴方が好きなのは───よね?」 ─え?聞こえない… 「気持ちを伝えるのに迷いはいらないよ……早く、伝えてっ」 ─どうして…?何で焦るの──? 「あたしの人格が消えてしまう前に──」 そう言い残してあたしの前から姿を消した彼女の頬には、大粒の涙が伝っていた。それが何を示す涙なのかは今のあたしには分からない。だけど、彼女が最後に残した言葉の意味は、何だったの──? 人格が消えるってどういう事─? あたしの体にはあの薬は投与されてない。人格が変わるだなんて事、あり得ないよ。 そうだとはっきり言える筈なのに、心臓が大きく脈打つのは何でだろう。彼女と同じように頬を伝う涙はどうして溢れてくるのだろう。 何もかも、わ か ら な い──。 *** 「愛!愛!」 誰かに呼ばれてる──? あたし、知ってる。この声──。 「愛!」 「ん──っ」 あたしが目を開けて最初に飛び込んできたのは、心配そうに側にいてくれたらしい四人の顔。もちろん、ツナと骸さんと、白蘭さんと九条君の四人だ。 「魘されてたみたいだけど、大丈夫?」 「あ、はい…」 あたしが起きあがると直ぐに、夢と同様に流れていたらしい涙を拭ってくれた白蘭さんに大丈夫だと頷いて返す。 「何か飲みますか?」 「あ、お願いします…」 落ち着いたあたしを見計らって優しく問いかけてきてくれた骸さんに、何故だか喉が渇いていたのでお願いする。 「頭、痛くねーか?」 「え、うん…」 骸さんが飲み物を用意しにいってくれたのを目で追っていると、頭上からした九条君の声に反射的に頷いていた。 「愛、酔っぱらっちゃって寝ちゃったんだよ」 「え…そだっけ?」 何でそんな事聞いてくるんだろうかと首を傾げていたあたしに、苦笑しながら教えてくれたツナ。だけどあたしにはそんな記憶が全くと言っていいほど残ってない。 「それはもう凄い酒癖の悪さでしたよ」 はい、と皮肉をぶつけながらあたしにフルーツミックスジュース(何故かパイナップルはないんだよね)を差し出してくれた骸さんからコップを受け取る。 「ありがとうございます……、で、あの…あたし勢いで何か口走ったりしてませんでした──?」 記憶がないんだ。自分が何をしでかしたかはもちろん気になるけど、何か言っちゃいけないことを口走った気がしてならない。 例えば、離れたくないとか、行かないでほしいとかいう類。もっと悪くしたら、あたしが好きだと気づいた人の名前──。 四人の様子を窺えば、少し気まずそうに視線をあたしから逸らしてる。…これは間違いなくあたし何か言ってるって事だ。 「言っちゃったんだね……」 四人が四人とも同じ反応を示してるんだから間違いないだろう。それにそうなら少し胸の苦しみが軽くなったように思う。 「離れたくないって愛は言ってくれたんだ」 「!──」 ツナはあたしのコップを握っていた手を包み込むように自分の手を重ねて、いつもみたいに微笑んでそう言ってくれた。 「「綱吉(君)!」」 「沢田!」 三人は驚いたように声を荒げて、ツナを制止しようとしていたみたいだけど、ツナの瞳は真っ直ぐにあたしに向けられていた。 「俺、嬉しかったよ。多分俺だけじゃなくて骸と白蘭も」 「え─?」 そう言いながら苦笑して側にいた骸さんと白蘭さんに視線を向けたツナに対し、二人はあからさまに目を逸らしていた。それが同意を示していることくらい、今まで一緒に暮らしてきたあたしには分かる。 「けどさ、俺たちはいつまでも愛と一緒にはいられないんだ…っ。俺、凄ぇっ楽しかったし、…ずっとこんな生活が続けばって思った……」 でも、と続けたツナの瞳には強い覚悟を決めた決意の色が表れていた。 「俺には守らなきゃならない仲間がいるんだ。愛と同じくらい大事な仲間が…っ、だか──!」 ギュッ───── 無意識、今のあたしにはピッタリの言葉だと思う。ツナにそれ以上辛いことを言わせちゃダメだって頭より先に体が感じて動いていた。 「ありがとうっ」 「愛……」 「もうちょっと、こっちで過ごせる最期の皆の時間──、あたしに下さい」 ツナにしがみついたまま、気が緩んだら溢れそうになる涙を堪えて、しっかりとした口調でそう口にした。 それが今のあたしの精一杯──。 ポンッ──── 「愛チャンだから、僕は力を貸してあげるんだよ」 「最期まで愛の傍にいます」 「俺たちはいつでも愛の味方だから」 三人の言葉が引き金となったかのように、あたしの瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。 .... (俺には入り込めない) (それくらいアイツ等の) (互いに思い合う力が強いって事だ) |