食事をとった後に、九条君は、薬に必要な研究資料を取りに行くと、1人自宅に戻った。
でも、本当は1人で無闇に動いてほしくない。もし、アイツに遭遇した時に圧倒的不利なのは、九条君になるんだから。
「寒くない?」
「うん…、大丈夫です」
布団に入るあたしの横で、布団の上から優しくポンポン叩いてくれてる白蘭さんに、ありがとうの意を込めて笑顔を返す。
「そう、…彼のことならあんまり心配しなくて大丈夫だと思うよ」
「どうしてですか?」
「…彼らの狙いは愛チャン1人だから。もう、警察沙汰になりかねないことはしないだろうし」
そんな、あたしに笑顔を返してくれた白蘭さんだけど、あたしの心配事を簡単に見透かして、納得のいく説明を加えてあたしの不安、心配事を取り除いてくれた。やっぱり、あたしって顔に出やすいのかな?
「ありがとう、白蘭さん」
「!……うん」
あたしは、ニコッと笑ってお礼を言った。だけど、そんなあたしを見て何故か寂しそうに笑う白蘭さんに妙な違和感を覚えた。
何だか、今すぐにでもあたしの傍を離れてしまう、名残惜しさを隠すような…。
「白蘭さん…?」
「ん?」
「どこ、…行くの?」
「え──?」
無意識のうちに伸びていた手は、しっかりと白蘭さんの手を掴んでいて、彼は意表を突かれたように目を丸くした。
「!…あ、あたし何して…ごめんなさいっ」
「!──…どこも行かないよ」
「え…」
僕の表情に表れていたのかはわからないけど、愛チャンが感じ取れるほどに、離れたくないって気持ちが伝わっちゃったのかな。
慌てて手を離す愛チャンの手を両手で包むと目を丸くする。…相変わらず冷たい手してるな。
「どこにも行かない…、こんな泣き虫な愛チャンおいていけないでしょ」
「なっ…泣き虫じゃないもんっ」
「この間泣いたばかりでよく言うよ」
話をうまく逸らして、からかえば顔を真っ赤にして必死に否定する様が、可愛くてしょうがない。このまま君の全てを奪いたくなるほどに愛しい。
「じゃあ、手握ったままでいてくださいっ…な、泣き虫ですからっ」
「!…仕方ないなー。ほら、繋いでてあげるから、ちゃんと寝る」
殺し文句に等しいね、それ。
「へへっ…おやすみなさーい」
「おやすみ、」
頭を軽く撫でて、しっかりと繋がれた手を握り返すと、安心したように目を閉じる愛チャン。きっと直ぐに寝るんだよね、そんな無防備なままで…。
「…すー」
おやすみ、と交わしてから数分もしないうちに聞こえてきた規則正しい寝息に、ホッと一息つく。
もし、あのまま寝てくれなかったら、言っちゃいけないことまで口にしちゃいそうだったから…。
「愛チャン…」
何も知らないで幸せそうに眠る愛チャンに聞こえるはずもないのに、聞かずにはいられなくて…。
「…君は一体誰が好きなの…?」
返ってくるはずもない問いを投げかける。別れる事が決まっていて、それが変えられないのだとしても、二度と会えなくなったとしても…、僕は君の気持ちを知っておきたいんだよ。
それがたとえ、僕じゃなかったとしても…。
「…何で、別世界の人間なの…」
何で、叶うはずのない恋をしたのかな、僕を夢中にさせた責任はどこでとってくれるの…。
「愛…」
ギュッと握った手に力を込めて、最初で最後の弱音をはく。
....
(白蘭、話がある…)
(うん、…もう少ししたら行くよ)
(…ああ) |