「んじゃ改めて」 「うん」 結局あたしは二人の間から抜け出てツナの隣にストンと腰を下ろした。その問題の二人はというと、お互いに反対方向を向いてふてくされてるみたい。何か可愛いっ。 でも今はそんなことに構っていられるような状況じゃないから、と自分に言い聞かせながら九条君の話に聞き入る。 「これ見りゃ話は早い。兄貴が開発したらしい薬があるんだけど、……性質がこうなってる」 そう言って九条君が見せてくれたパソコンの画面に表示された資料。多分その薬のデータがまとめてあるんだと思う。あたしはこれでも薬剤師である父の娘だ。薬に関しては並の人より知識はある、けどこういうタイプは初めて──、 「人格破壊…?」 「そう、颯斗が試作品飲まされてる」 「え……」 待ってよ、この薬の詳細に人格破壊ってあるよ?それに、新しい人格が出来ちゃったら古い人格は消えちゃうって──、 明記されている文章を読んだあたしは、絶望的な何かを感じて何も言えなかった。 「一回飲んだらもう助けられないということですか?」 あたしが聞きたくても聞けなかったことを代弁して骸さんが聞いてくれた。 「それなんだよ、早い段階ならまだしも…颯斗の場合、覚醒しちまったんだろ?」 「初期段階なら反作用の薬で治るってことかな?」 「作れればの話だけどな」 確証あると頷く九条君に、あたしはパソコンの資料を読み進めていく。 「お、おい愛」 その話が上手くいくならまだ颯斗を助ける道はある。あたしの大切な親友をこんな訳の分からない薬でこれ以上苦しめるわけにはいかない。 薬の進行段階の表を出すと、上から順に目を通していく。隣でツナがこれじゃない?と指さした場所は、まだ初期段階に部類される。 「心臓が苦しくてまだ拒否反応を示してる症状……これ、まだ初期だよ!」 九条君に訴えるようにそう言うと、ならまだ間に合うかもしれないと身を乗り出してきた。 「よかったね、愛」 「うんっ」 嬉しくて自然と広がる笑顔にツナも笑顔を返してくれる。 「んじゃ手伝えよ?愛」 ニッと笑う九条君にあたしはもちろん、と笑顔を返して頷いた。うん、これからが本領発揮。アイツになんて絶対に負けない。 *** 「じゃ、俺暫く居候するわ」 「「え?!」」 九条君の決定事項に、あたし達は声を揃えて立ち上がった。だっていきなり居候って…、とゆーか部屋ないし! 「部屋一部屋あけてくれるか?まあ、愛と一緒の方がいいんだけどよ」 怪しい笑顔を向けた九条君に困る!と叫ぼうとしたら、あたしの前に三人が庇うように立って。 「何を抜け抜けと、誰が許すと言いましたか?」 「僕の部屋あげるから、愛チャンには必要以上に近づかないでよ」 「俺も賛成できません!」 「皆…」 そこまで言わなくても、と思いながらくすぐったい気持ちを胸に、目を丸くしてる九条君にそれでいいかと問えば、苦笑して頷いてくれた。 またまた増えた同居人に、これからどうなっちゃうんだろ? 薬の精製を頑張るという新しい目標も出来たし、一歩ずつでもあたしは最終目標に近づけてるよね、パパ…。 .... (という訳で、愛チャンの部屋に居候させてね) (えっ) (許しませんよ、順番的に今夜は僕のはずですから) (順番て何!) (骸も俺抜かしただろ!) (だから順番て─) ギャイギャイ (大変だなお姫様は) (からかわないでよっ) |