「あ、ねえ、ねえ」 朝食も食べ終わり、食器洗いをしていたあたしは、それを終えると思い返したように振り返り、身を乗り出した。 「「「?」」」 「今日お休みでしょ?……九条君に会いに行こうと思ってるんだけど、一人で行っても─」 「「「ダメだ(です)よ」」」 あたしが最後まで言い終わる前に、見事に三人の声が重なり、はっきりだめだと言われてしまった。まあ、分かってはいたんだけどね…。 「で、ですよね」 「わざわざ彼に何の用なんですか?」 もう、備え付けになってしまっている小箱に、あたしお手製のチョコを摘みだして、口にした骸さん。 その問いかけに、少し悩んだ上、上着のことと、その時に聞いたことを簡単に説明してから理由を切りだした。 「今、颯斗があんなことになっちゃったから、ちゃんと九条君に話聞かなきゃって思って…」 「でもさ、その人…紫苑て人の弟なんだろ?信用できるの?」 「あたしはできると思う…、助けてもらったし」 助けてもらっただけじゃ、信用するに値しないのかもしれないけど、あたしは彼を信じたい。 もしかしたら、九条君なら、颯斗がああなった原因も、元に戻れる方法も分かるかもしれないから。 「それなら、僕が同行しますよ」 「え…?」 「一人で好き勝手動かれるより、幾分かはマシでしょうから」 ニコッと微笑んでくれた骸さんに、あたしは面くらいながら、同行でもいいよね?と心の中で九条君に問いかけた。もちろん、返ってくるわけのない問いだけど。 「うん、それならいいかな。今回は、骸君が適任だろうしね」 「骸、頼むよ」 「言われなくとも」 骸さんが頷いたのとほぼ同時に、インターホンが鳴り響いた。 「こんな朝早くに──」 あたし達は顔を見合わせながら、首を傾げて、警戒しながらもあたしはそっと玄関に近づき、ドアを開けた。 「どちら─?!九条君!」 「悪い、ちょっと緊急でよ…っ」 ドアを開けて直ぐにあたしにもたれ掛かるようにして倒れてきたのは、今し方会いに行こうと思っていた彼で、傷だらけの身体を必死に押さえて、ここまで来てくれたようだった。 「愛、ドア直ぐ閉めて!」 「え─?」 ツナの言葉に、九条君を抱えながら顔を上げると、目の前に拳銃を構えた颯斗が立っていた。 「颯、斗…」 「よお、早くそいつを引き渡せ。どうせ、助からないから」 こんな朝っぱらから拳銃を隠すことなく、こんな一般住宅街に持ち歩いてるなんて、九条君が余程邪魔な存在になってるんだ。 それでも、初めて向けられた拳銃の銃口に、それを向けた相手が、あたしの大親友だという事実に、あたしは颯斗から目を逸らすことも出来ずに、固まっていた。 「何だよ、お前も一緒に死にたいのか?」 「愛!」 しゃがみこんだ颯斗は、あたしの額に銃口を押し当てる。後ろからはツナの叫び声も聞こえて、─だけどあたしは、九条君を守らなきゃっ。 ギュッと気を失ってる九条君を抱きしめてキッと颯斗を見据える。 「─あたしは、颯斗が大好きだから」 「っ!」 「颯斗はあたしを傷つけることなんて絶対にしない」 あたしは絶対に泣かない。絶対に諦めない。思い出に残る颯斗の笑顔が本物だと信じたい。颯斗とあたしが歩んできた人生が、全部辛かったなんて思いたくない。 「颯斗、警察を呼びました。早く帰りなさい」 「何だとっ」 「これ以上、愛チャンを泣かすなら、いくら君でも許さないよ」 え─? あたし、泣いてる? 「!──ち、」 チラッとあたしを見た颯斗は、拳銃をしまい、その場に控えていたらしい人たちも連れてそこから退いた。 「愛!」 「……」 それに安堵したのか、気が抜けたあたしは意識を手放した。 .... (愛!) (気を失っただけですよ、外傷はありません) (彼が何かをつかんだんだろうね) (……ええ) ─────── (で、骸君、愛チャンは僕が運ぶからそっちの宜しくね) (──その手を離しなさい、邪魔です) (骸君が邪魔だよ) (…はあ、じゃあ俺が運ぶから) ((───)) |