あたしが目を覚まして、目の前にいた颯斗を目にしたとき、彼が颯斗じゃないことくらい直ぐに分かった。
それと同時に、九条君が言っていた黒幕のことも分かって、彼が二重人格であることも彼の話を聞いて悟った。
そして、そうまで追いつめたのがあたしだということも、義父であるアイツに通じていることも──。
正直言って、平静を保てる状態じゃなかった。こんな非現実的なことが次々起こるなんて、想像もしなかったことだから。
どこから歯車が狂ったのか分からない。颯斗をどれだけ傷つけていたのかも分からない。
だけど、骸さんや白蘭さん、ツナがあたしの元に来てくれたことと、アイツとのことに関わりがあるのだとしたら…、だったらあたしがこんなとこで立ち止まってるわけにはいかない。
だってこれで分かったじゃない。あたしの大親友の颯斗がアイツと通じてたんじゃなくて、もう一つの人格が通じてたってこと。
颯斗は何も悪くないってこと。
骸さん、白蘭さん、ツナの三人がいなかったら、あたしはとっくに潰れてた。
だけど、彼らがいてくれるからまだあたしはちゃんと立っていられる。だったらやることは一つ。颯斗を救って、父の報いを果たして家族を取り戻す。
そして、全てが片づいたら、貴方たちの争いを止めたい。誰も死ななくていいようにあたしが盾になる。
だから、もう少しだけあたしに力を貸してください。
「骸さん」
「はい」
「白蘭さん」
「うん?」
「ツナ」
「ん?」
「今更だけどこんなことに巻き込んでごめんなさい!でも、あたし頑張るから、もうちょっとだけ、力貸してくださいっ」
あたしは、三人に頭を下げて、自分の考えを一気にまとめて口にする。
「愛…」
後ろで心配そうな美和と和磨の声を受けて、頭を下げたまま三人の答えを待った。
「本当に今更、ですね。端からそのつもりです」
「僕、前にも言わなかった?言ってくれなきゃ守りたくても守れないって」
「俺たちがいつまでこっちにいられるか分かんないけど、力になるのは、当たり前だろ」
「皆っ」
三人が笑ってごく当たり前のように、そう言ってくれたことが何より嬉しくて、あたしの頬には、温かい雫が流れ落ちる。それは決して、悲しいとかそんな感情じゃなくて、ただ温かい気持ちが形となって流れただけ。
「私たちだって愛の味方なんだからね!」
「そうそう、忘れられちゃ困るなあ」
「!美和っ、和磨っ」
何年一緒にいると思ってるんだ、と苦笑する二人に、あたしってこんなにいっぱい支えられてたんだって思うと、益々泣いてなんかいられないって、強くならなきゃって思える。
くじけてる暇なんかないよね!
待ってて、颯斗──。
***
「悪い紫苑、失敗した」
「まあいい、正体はいずれバレることだったんだからな、これでお前には、夕吏の動きを見張ってもらうことになるが」
暗闇に潜む二つの影───。
「分かってる」
「もし救いようがなければ殺せ」
「ああ」
ついに本格的に動き出すことになった紫苑を愛たちは止めることができ、颯斗を救うことが出来るのか─。
そして、もう一つ彼女の知らぬところで会議紛いな話し合いが進んでいた。
***
「この際だからはっきりさせようよ、愛チャンのこと、どう思ってる?」
「なっ!こんな時に何言って──」
「こんな時、だからでしょう。本当に抜け目のない人ですね、貴方は」
白蘭がいきなり切り出したその問いに、動揺するツナと、溜息をもらす骸。
三人は、愛が疲れて眠ってしまってからリビングで秘密の話し合いをしていた。
「で、どうなの」
「お、俺はそんな対象で見てないっ」
「本心を言った方がいいと思いますが、強制はしません。ライバルは少ない方がいいですから」
「お、骸君は認めちゃうんだ」
机に頬杖をついて楽しそうに笑う白蘭に対し、ツナは目を見開いている。相当吃驚したようだ。
「クフフ、貴方に横取りされては適いませんしね」
「同感、僕だって譲りたくない」
「ふ、二人とも」
火花を散らす二人に、本心が言えるわけもなく、冷や汗を流すツナ。
「けど今は、愛チャンを困らせてる場合じゃないよね」
「ええ、それに愛は僕らを¨男¨として意識していないようですし」
「そうそう、て事で抜け駆けはなし。今は勝負お預けね」
「当然でしょう」
笑い合う二人に、ツナは安堵の溜息をもらす。
「もちろん、綱吉君もだよ」
「分かってますよね、?」
「ひィわ、分かってるって!」
そんな彼にくぎをさすように武器をちらつかせる彼らに、ツナは慌てて両手を前で振り、何度も頷いて返した。
....
(て事で、明日からは公平に順番に愛チャンの部屋で寝ようよ)
(それは名案ですね、綱吉ばかりでは不公平ですから)
(え) |