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15:(大きくなり過ぎた君の存在)

「んー…」


本当、無防備な女だな。男と寝てんの分かってんのか?


颯斗を抑え込んで久し振りに表に出てきた俺は、近くで眠る愛の頬に、スッと手を伸ばして顔を近づける。が、本人の手によりそれは遮られた。


「やっと出てきた…」


この女──


「!─知ってたのか」


驚いた様子もなく、俺を見上げる愛にそのままの姿勢で問いかける。


「なんとなく。九条君が颯斗を黒幕だって言ったとき、あり得ないって思ったけど」


「けど?」


「最近、颯斗が颯斗じゃなくなる時があったから……もしかしたら二人いるのかなって」


「バカじゃなかったのか」


「失礼よ、でも、何で?貴方は何?」


心配そうに瞳を揺らす愛に、俺は目を見開いた。こいつが心配してるのは俺じゃなく、もう一人の颯斗であることは分かっているのに、──。


「九条君が言っていたのは貴方のことなの?」


「まだ詳しくは聞いてねーのか」


「聞いてない…」


九条との話をいつも遮っていたのは、紫苑の為。お前と仲良くしていた颯斗がもういなくなるって分かったらお前はどうするんだろうな。


「ねえ、颯斗を返し──!」


「煩い」


無理矢理塞いだ唇に、目を見開いた愛は必死に離れようともがく。誰が離すか。


「ちょっ、皆い──んっ」


どうせ誰も起きちゃいない。俺がここで愛を襲ったところで誰も止めに入る奴はいない。


「やだっ、颯斗!」


「!っ」


ドクンッ──
こいつ、くそっ


愛の叫び声に心臓が大きく脈打つ。奥に押し込めたはずの人格が反応してる。


胸を押さえると同時に上から首もとに突きつけられた、槍(?)に顔を上げる。


「それ以上は許しません」


「おいで愛チャン」


「ち、」


鋭い殺気に身動きできずにいる俺に、愛は簡単にそこをすり抜けて、白蘭の元に逃げた。


「大丈夫?」


「っ」


僕が、彼女の乱れた服を直して問いかければコクリと頷いて、唇を噛みしめていた。


「怖かったね、もう大丈夫だよ」


頭をゆっくり撫でて、抱きしめると愛チャンはしがみついて何度も頷いてくれた。


「やはり君が紫苑に通じていましたか、愛にまで手を出すとは、欲望の塊ですね」


「はん、どうせ紫苑だって同じことすんだろうがよ……その前に俺が手出そうが、関係ねえだろ」


「─それはただの独りよがりに過ぎない、愛が愛しいなら、無理強いが酷なことくらい分かるでしょう」


骸君は、三叉槍を突きつけたまま淡々といいのける。愛チャンがいるからって優しすぎるんじゃないの、それ。それにそこの連中、この状況で寝ていられるなんて怒りを通りこして、感心すらするよ。


「何だよ、お前らも、こいつを女として見てんだろ。過去を聞いて弱ってる愛につけ込んでるだけじゃねえか!」


ビクッ──


「愛チャン…」


「あたし、そんなこと思ってないっ」


僕の腕の中で、肩をビクつかせた愛チャンを宥めるように、背中を軽くたたく。僕らは彼のように弱くない。自分がこれと決めた道しか進まない。


君の傍にいるのは、弱っている愛チャンにつけ込んで、こっちに振り向かせようとしてるわけじゃないよ。あんな男の言葉に耳を貸す必要なんてないし、そんな不安そうな顔しないで。


「クハハハ!…馬鹿ですか君は、そんな卑怯な真似を僕らがするとでも?」


「はあ?」


「愛に弱みなどない、彼女は自分で全て解決する力を持っています。付け込む隙など微塵もないですね」


「骸さん…」


「くっ、」


言ってくれるね、骸君。
愛チャンの表情から不安の色が消えて、また骸君に先越されたことが悔しかった。


はは、これは吃驚。いつの間にかこんなにも君にハマっちゃってたみたいだね、僕。


「他に何か言い残すことは?嫌でも颯斗の人格を引っ張り出して差し上げますよ」


「ざけんな!俺は颯斗になんか戻らねえ!その女手に入れるまで、颯斗の人格は邪魔なんだよ!」


「!─颯斗っ、あたしたち…ずっと親友だったじゃないっ」


ドクンッ──
畜生、出てくんな!


大きく脈打つ心臓に胸を押さえて、愛を睨み返す。


「哀れんでんのか?……俺の人格を作り出したのには、お前だって関係あんだよ!颯斗を追いつめたのは、お前のそんな考えからだろうが!」


「えっ、」


「酷い女だよな、お前」


お前はもっと傷つけばいい。俺が颯斗が苦しんだようになっ。


六道に向けられたそれを振り払うと、俺はそのままそこから逃走した。


「逃がすものか、──!」


「もう、いいっ」


「愛──…」


「あたしが全部悪いんだよっ、颯斗は何も悪くないのっ」


必死に後ろからしがみついてくる愛に、殺気は薄れ、ただ震えて僕を止めようとする彼女がどうしようもなく、大切に思えてくる。


いけませんね、こんな感情を貴方に抱いては──。


抱きしめたい衝動を抑え、回された腕にそっと手を添えることしか出来なかった。君の存在が僕の中で大きくなり過ぎました。




....
(震える君に)
(かけてやれる言葉など)
(今の僕にはない──)


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あきゅろす。
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