「愛、もう隠さなくていいよ」 「え?」 和磨に肩を抱かれて、顔を歪めた美和の言葉にあたしはフリーズして目を見張る。まさかと思うけど、バレてる? 「ったくよ…、早坂はお前のこと気にいってっから近づくの躊躇ってた。つまり、今そこにいるのは早坂でも誰でもないって訳だな?」 「えっ」 冷や汗だらだらのツナに対して、何故か落ち着いているあたしは、早坂君があたしに近づくのを躊躇ったわけが気になった。 「俺らお前のこと、ずっと心配してたんだぜ?」 「皆…」 あたしは、三人共に骸さんの幻覚が作用していないんだと、頭の中で結論づけた。そして、ずっと心配してくれていたことも。 「…っ」 ギュッと唇を噛みしめて、話さなきゃならないのに言葉が出てきてくれない状況に、あたしは俯くしかなかった。 「流石愛の理解者ですね」 「一日でバレるとは思わなかったなー。ね、愛チャン」 「わっ」 「泣かないの」 「う"」 あたしがそうなってすぐに口を開いてくれたのは骸さんで、抱き上げられて膝の上にのせたのは白蘭さん。 「お前、俺が見舞いに行ったときにいた奴だろ?」 「ええ、懐かしいですね」 「懐かしくねーよ!つかいい思い出ねー!」 「そうですか?」 クフフと笑う骸さんは、パチッと指を鳴らしてニコリと笑う。 「「「あ…」」」 三人が声を合わせたことで、あたしは顔を上げ、後ろを振り返ると三人がいつもの姿に戻っていた。 「骸さんっ」 「もういいじゃないですか。バレたものは仕方ない」 「…でもっ」 「愛チャンだけじゃいくら僕らがフォローしても手が回らないところがあるからね」 「愛のこと一番に心配してる人たちに、嘘を付き続けるのはやっぱりダメだよ」 「ツナ…」 三人の笑顔があたしの胸の内を温めてくれて、頬を温かい雫がこぼれ落ちる。 「愛は今話せる状態ではないので、今日家にいらしたらいかがですか?」 「その方がいいかもしれないね」 「んじゃ、今からかえっか」 美和から離れて立ち上がった和磨にあたしたちは一斉に目を見開く。帰るっていきなり? 「和磨!まだ三時間あるのよ?」 先に和磨を止めに入ったのは美和で、あたしも慌てて美和に同意する。 「いや、帰った方がいいな」 「颯斗まで何言って─」 「次の時間、九条だぞ」 あ、そうだ…。 次はアイツの授業なんだ─。 颯斗の言葉にハッとなって、それと同時に昨日受けた屈辱的な痛みが疼き出す。…あーあ、嫌なこと思い出しちゃったな。 「っ」 「バカ」 グッと引かれた腕に、あたしの体は颯斗に包まれるように抱きしめられた。 「はやっ」 「何で直ぐにアイツがあの父親だって言わなかったんだよ」 「?!」 颯斗の言葉はあたしの胸を締め付けて、抱きしめられた温かさで和らいだはずの震えが戻ってきた。 「言ってくれりゃ助け──」 グイッ── 「ストーップ」 「大丈夫ですか?」 「骸さ、ん…?」 颯斗の言葉は白蘭さんによって遮られ、あたしの体は後ろに引かれて、見上げた先に骸さんの顔があった。 どうして? 口に出さなかったのに彼はあたしの頭を撫でて微笑むだけだった。 なんでかな…? もう、さっきまでの震えは止まった。 「愛チャンに紫苑の話持ちかけるなんて酷なことしちゃダメでしょ」 「え…」 「まさか、話したのか?」 あたしは骸さんの腕の中でこくっと頷くと、そのまましがみついた。 「愛、濡れてるんですが…」 「狽ヲっごめんなさっ」 涙で濡らしてしまったらしい服に、慌てて体を引き離すと、後ろから上機嫌な白蘭さんの声がかかった。 「嫌なら貸してよ、骸君」 「お断りします」 貸してよ、に断るって──…、二人から離れる選択肢はないわけ? 「ちょ、骸さんっ」 「あーそう」 あーそうって言いながら笑って睨み合うのやめてくださいよー。 「ツナーっ」 「愛困らせるなって」 「「僕じゃ(ないよ)ありません」」 「「──」」 二人の言葉にあたしとツナは顔を見合わせて深い溜息をついた。 .... (こうやって三人が) (あたしの心を満たしてくれる) |