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06:(忍び寄る黒い影)

「いい加減にして!」


愛の一声に水を打ったように静まりかえった教室。滴る水が床や机に落ちる音がやけに響いて聞こえる気がした。


「愛…」


「皆、席について。席替えは終わったから残りの時間は自習しよう」


あたしは呼ばれたことに答える前に、クラスメイト達にそう言うと、白蘭さんと骸さんを見上げる。


「こっち…」


「「?!」」


二人の手を引いてツナに目で来てと示すと、三人を連れて教室を出た。これ以上何かあったら怪しまれるだけじゃすまない。


「愛ちゃん相当キレてたな」

「こ、怖かったー…」


「愛、大丈夫かしら」

「沢田もいるんだし平気だろ」


愛を心配する美和達だが、敢えて彼女について行こうとはしなかった。彼女がそれを望んでいないことを知っていたから──…。




***

あたしは三人と保健室に来ると、保健医に頼んで二人分の制服を取りに行ってもらった。


「ごめんなさい…水かけちゃって」


二人にタオルを渡してベッドに腰掛けると俯いたままそれだけ口にする。


「愛チャン…」


「頭上げてください」


二人に言われて顔を上げると、申し訳なさそうな顔をした二人と視線が絡まる。


あ……、


「止めてくれてありがとう」


「…助かりました」


「骸さん…白蘭さん…」


あたしは二人の顔を交互に見て、あーと何かを感じ取るとそのまま二人に飛びついた。


「愛チャ─!」

「濡れま──…!」

「!」


二人が何かを言い掛けたのを遮って、そっと二人に聞こえるだけの声で囁いた。


「スッキリしたからありがとう」


何のことかよく分からなかったかもしれない。だけどきっと伝わったんだと思う。久しぶりにクラスで素の自分が出せた気がするから、その点では二人に感謝してる。


「でもあんまり喧嘩しないでくださいね…。止めるのも結構勇気がいるんで」


「確かに…」


あたしが二人から離れてそう言えば、ツナも同意してくれて、二人は一瞬きょとんとしてから頷いてくれた。




***

「誰だアイツ等は──」


「それがここ最近、愛さんの家に居候してるみたいでっ」


「何だと?」


陰でこそこそ見ていた紫苑に慌てて頭を下げる部下達。だが紫苑の怒りはおさまらなかったようで、彼は不適な笑みを浮かべて口を開いた。


「消せ」


「!ですが…もし、愛さんに知れれば」


「愛には俺が口止めすればいい。いいから今週中に奴らを消せ」


「「!!──はッ」」


そんな会話が成されていたこととは露知らず、仲直り(?)を果たしたあたし達は、二人の制服を保健医から受け取って着替えを済ませてから教室に戻ってきた。


「ツナ、高校の勉強まだよく分からないよね?」


「リボーンにやらされてたから多少…」


「流石リボーンだね…」


ちなみにあたしの隣はツナで、あたしとツナの前にあの二人がいる。空気はまだ何か落ち着かない感じで目は離せないけど…。


一番後ろの席で固まったからよかったものの、クラスメイト達からの視線はものすごく痛い。そう思ってキョロキョロ周囲を見渡していると、後ろから美和に小突かれた。


「愛、今日のお昼その人たちも一緒に屋上避難しようか」


「そ、そうだねー」


またもやあたしの後ろの席になった美和にそう言われて苦笑しながら返すと、その隣にいた和磨が思い出したように口を開いた。


「そういや沢田とそんな仲良かったっけ?」


「えっ」


「な、仲いいよ」


あたしとツナは和磨の問いかけにしどろもどろになりながらそう答えるけど、笑顔がひきつる。危ないって;ぶっちゃけあたし仲良くなかったし…。


「へー、どっちかっつーと颯斗と仲良かっただろ?」


「あ?まあなー…」


げ狽サういやそうかも…。早坂君(不登校児)て、結構がら悪かったけど颯斗と一緒にいるときは落ち着いてたっていうか。でも一番に声かけるはずの颯斗が声かけてないってのも妙な話よね。


「…ね、愛」


「ん?」


颯斗が和磨と話し始めてから暫く、ツナが隣から小さい声であたしを呼ぶからあたしも小さく返す。


「あの人、俺が不登校の子じゃないって気づいてるみたいだよ…」


「え…?でも、骸さんの幻覚で誤魔化してるんじゃ…」


「僕の幻覚も効く者効かない者多々ありますからね。現に綱吉には効きませんし」


あたし達の会話を聞いていたのか、振り返った骸さんが分かりやすく説明してくれる。そういえばそうだったかも…。


「えっでもここは骸さん達のいた世界じゃないんだよ?そんな特殊な人いるわけ…」


「彼は特殊だと思うよ。だから僕が近づいちゃダメだって言ったでしょ?」


何だか白蘭さんがそう言ったときの笑顔が妙に怖く感じた。颯斗が特殊だというなら、ずっと一緒にいたあたしが気づくはず。そんなことありえない…!


「でもバラす気はないみたいだし、多分言っても誰も信じないだろうから」


「あ、うん。そうだよね…」


そう答えながらも視線は颯斗に向いていて、何故か彼がいつもと違って見えた気がした。


「愛、大丈夫だよ」


「あ、ごめん…大丈夫だよね」


三人の複雑な表情を目にしながら、あたしの不安は募っていくばかりだった。




***

そして迎えたお昼休み。いつものメンバーに三人を交えて七人で屋上に集まっていた。


「何でこいつらまでいんだよ…」


「まあまあ、そんなあからさまな態度とるなって」


「そうよ!転校初日で三人とも緊張とかあるだろうし!」


「「?!─…(この女…」」


「美和最高!」


その美和の優しい言葉に、あたしは不快感を抱かなかった。むしろ三人を受け入れてくれたことを嬉しくさえ思った。


まさか、美和が転校生は三人だと気づいていたなんて思いもしなくて…。


だから気がつかなかったんだ…。骸さんと白蘭さんの二人が手を止めて、美和を凝視していたことを──…。


また、美和もあたしを抱き止めながら二人を睨み返していたことも──…。




....
(絡み始めた皆を結ぶ糸と)
(動き始めた歯車──)


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