「近づいちゃダメじゃない!」 「もう大丈夫なの。誤解だって分かったから」 「何暢気に言ってんのよー!」 美和があたしの腕にしがみついて、心配そうにそう言ってくるけどあたしは笑って流した。結局あの後、まだ九条君をあたしの天敵で、学校占める不良だって思ってる皆から引き離されてしまったけど…、九条君は笑って仕方ないよってだけ言って手を振っていってしまった。 「つーかアイツ、マフィアのボスの弟らしいじゃねーか。危ないだろ」 「何それー」 「これ間違いじゃねぇんだって!」 サラッと危ない発言してる颯斗と必死に説得しようとしてくる和磨。その事実は知ってる。だってあたしの今の父親であるアイツが九条君の兄で、マフィアのボスなんだから。 「知ってるよ。ほら、あたしが大丈夫って言ったら大丈夫なんだから!早く教室入った入った」 あたしは三人を教室に押し込んでから後ろにいた三人を振り返る。 「行こう!」 「「「?!」」」 ツナの手を引いて、白蘭さんと骸さんに笑いかける。何だかんだ言って反対したあたしだけど、三人と一緒に学校行けることが嬉しいみたい。 *** 「愛チャンと一緒にいたあの子が颯斗君だね」 「えぇ、どうやら化けの皮が剥がれてきたようです」 小さく交わされた二人の会話は騒がしいクラスメイトの声の中に消えていった。 *** 「えー…、イタリアから留学してきた白蘭君だ」 「Grazie」 (よろしく) 「「キャー!」」 白蘭さんてば、見た目少し幼くなっても中身まんまでお色気ムンムンなんだから。少しは抑制してもらわないと…。 「それでだな。六道に続いてウチのクラスも増えたから、一度席替えをしようと思う」 女の子達が落ち着いてから話を切りだした先生にクラスがざわめき出す。席替えねー。 「学級委員長」 「え、あっはい」 実はあたし学級委員長もやってたりする。先生の声に慌てて立ち上がると任せたとだけ言われて──、 「おっつ…」 「愛、どーすんのよ」 「んー…」 確かに折角の機会だし席替えもいいかもしれない。皆からブーイングは上がってないみたいだし、ね。 「席替え反対の人いる?」 あたしが自分の席から問えば反論する言葉は上がらなかった。隣の問題児と留学の問題児から以外は─。 「僕は今のままでいいです」 「愛チャンの隣がいい」 お、終わったー、あたしの平穏ハッピー学校ライフ。周りからは何で?と疑わしい目を向けられて、あたしの立場が危うくなってきてる。 「静かにしなさいよ。愛に文句がある奴は私に言いなさい」 「美和…」 机をバンッと叩いて立ち上がった美和にシーンと静まりかえる教室。こういう時いつも助けてくれるのは大親友の美和。どんな時でも、あたしの味方でいてくれる美和はあたしの憧れだよ。 「席替えは公平にくじ引きでやるから」 いくら一緒にいたくても二人のさっきの言葉には頷けない。あたし二人いないんだから!← 「さっすが愛ちゃんだよなー」 「格好いいからって愛ちゃんが簡単になびくとでも思ってんじゃね?」 「ばっかばかしー」 「ちょ、ちょっと」 格好いいからなびくって何! あたしそんな軽くないから! 男の子達の会話を慌てて止めようと前に踏み出した瞬間、躓いて骸さんに抱き止められた。 「ごめんなさいっ」 「あんな僻み放っておきなさい」 「でも…」 「彼が手を打ちますよ」 骸さんが視線を送った先には、終始笑顔で会話を聞いていた白蘭さん。手を打ちますって。それ困る! 「僻むのもいいけど、愛チャンのこと気安く呼ばないでよ」 「はあ?」 「お前こそ初対面で馴れ馴れしいんだよ」 骸さんから離れてそちらに目を向けていると案の定、空気がピリピリしてきた。 「初対面?」 待って何言う気だあの人! 「一緒に暮らし──」 「はーいそこまで。席替えしたいんだけどいいかなー?」 あたしはとんでもないことを言い掛けた白蘭さんの後ろに回り、慌てて言葉を遮って服を引っ張る。 「暮らし?愛チャンそいつと知り合いなの?」 「マジでー!」 「えーっと知り合いっていうか近所でね!」 あたしがそう言えば、なあんだと息をつく男の子達にホッと一息つくと、白蘭さんを引っ張る。 「お願いですから問題起こさないでください」 「骸君と同じ事言わないでよ」 「え?そうなんで…!じゃなくて…とにかく目立った行動はNGですからね!」 「うん」 それから白蘭さんに落ち着いてもらって、くじ引きの席替えを開始した。 「皆、引いたら黒板に書いてある番号確認して席変わって」 あたしは黒板に席を番号で振り分けた図を書いてからくじ引きの入った箱を持って席を回った。そして最後の一列に回ると、あたしは残った一枚を手にして皆に一斉に動いてもらった、んだけど───…。 「何故僕の隣に貴方がいるんですか」 「間違えたんだよ。骸君が」 「僕ではなく貴方が間違えたんでしょう」 あたしの目の前で紙を片手に言い合う二人に頭が真っ白になる。よりにもよってこの二人が隣同士なんて…。何てくじ運悪いのよ。 あたしは、自分の席に移動できないまま頭を抱えていた。委員長の権限使っても職権乱用でブーイングくるし、かといってこの二人を隣にすると、クラスメイトの命が危うい。 「僕は愛チャンの横がいいって言ったの聞こえてたよね?」 「元々愛の隣は僕でしたから、貴方が学校に来ると言わなければよかったんですよ」 「家の中で嫌でも顔合わせるのにここに来てまで骸君が側だと手あげちゃいそうなんだけど」 「ご心配なく。その前に僕が貴方の息の根を止めますから」 エスカレートしていく会話に徐々に青ざめていくクラスメイトたち。何とかしないとさっきから二人の周りに殺気がたちこめてる…。 青ざめるクラスメイト達の視線もあたしに集中して…、何とかしろって目で訴えられてる。無茶苦茶だよっ。 「未だに愛の部屋と自分の部屋間違える貴方に言われたくありませんね」 「骸君だってこないだ帰るの遅すぎて愛チャンに閉め出されてたくせに」 あー…、何言ってくれちゃってんの。この二人(怒) 「おいアイツ等愛ちゃんと同棲してんのかよ」 「えー!愛に限ってそんなことっ」 「そうよ!楠木さんはそんな不純な方じゃないわ!」 庇ってくれるのは嬉しいけど、あたしどんなキャラって思われてるのか怖くなってきた。 「二人ともいい加減に──」 「「煩い(です)よ」」 「……」 止めに行ったツナは二人の言葉に一刀両断されて何も言えなくなっていた。こうなったら仕方ない。あたしは覚悟を決めて、用具庫からバケツを取り出すと中に水を溜めてくる。 「愛それどーすんの?」 「離れてた方がいいよ(ニコッ」 あたしは近づいてきたツナに笑いかけて頭を撫でると、クラスの皆も言い合いしてる二人から距離をあけた。あたしはいつまでも言い合いを続ける彼らに思いっきり水をぶっかけた。 「いい加減にして!」 「「!?──…」」 びしょ濡れになってあたしを見つめる二人の瞳は大きく見開かれていて─、あたしは震えながらその一言を叫ぶことしかできなかった。 そりゃあ、あたしだって喧嘩した二人を止めるのは怖い。逆に怒りをかって殺されたりしないかって思ったことだってある。あたしだって普通の女の子なんだからっ。 シーンと静まりかえる教室に、あたしはただ二人から視線をはずすことができないでいた。 .... (愛ってやる時はやるわね) (感心してる場合かー?) |