「骸さん、手続きとかどうするんですか?」 「必要ありませんよ。幻覚で何とでもなりますから」 あたしがバスから下りて、学校に向かっている途中にそう聞けば、何ともないと言った風に笑う骸さん。 「それっていいんですか?」 「いいも悪いもないと思いますが、…先程から何故そんなに僕から距離を置くんですか」 あたしの少し前を歩きながらふと思い出したように言う骸さんに言葉を詰まらせる。どうしよ…、まさか今更他人の振りしてくださいなんて絶対言えないし…。 立ち止まってあたしを待ってるみたいな骸さんに比例して、あたしも足を止める。 「愛」 「え、あ…はい」 早く行きますよと促す骸さんに頷いて、集中する皆の視線を背に骸さんに追いつく。 端から見れば恋人同士に見られてしまうかもしれない、ってことから距離をあけていたんだけど…。 いや、あたしなんかじゃ骸さんにつりあわないんだけど!骸さん格好いいから、通りすがりの女の子さっきから振り向くか立ち止まる繰り返してるし…。その女の子たちの視線が痛いといいますか…。 骸さんは視線を気にした風もなく、目の前に見える学校に向かって歩くだけ。 あたしが彼の隣に並ぶと、ボソッと隣から呟きが聞こえた。 「そんなに視線が気になりますか?」 「?!──…」 骸さん、気づいてたんだ…。 あたしが反射的に彼を見上げると、ポンッと彼の温かい手があたしの頭に乗る。彼の表情までは見えなくて、あたしはただその撫でられる心地よさだけを感じていた。 「べ、別に骸さんの事で視線気にしてた訳じゃないですからっ」 「はいはい」 隣で照れ隠しをしながら意地を張る愛を横目に周囲に目を配る。 この突き刺さる様な視線は愛にだけではなく、僕にも向けられているようですね。 愛を見る男の目は彼女に好意を抱いているようにしか感じない。 「少々、目障りですね…」 「え?」 「何でもありません」 愛がここまで注目されているとは思っても見ませんでしたねぇ。 愛をそういう目で見る貧弱な男共に鋭い視線を投げかければ、そそくさと視線を外して僕らの前を行く。 それでいい、愛に近づく害虫は今日中に僕が排除しておきましょうか。 「骸さん、来客用スリッパにしときます?」 「……はい?」 校内に入って直ぐにそんな事を言い出す彼女に遅れながら反応する。 「学校指定のないですから」 「ああ、はいそうしといてください」 愛にそう言えば、用意してましたと言わんばかりの笑顔で僕に差し出される来客用スリッパ。 「愛、おはよ」 「おはよー」 「愛ちゃんじゃーん、うっす!」 「朝練お疲れー」 何ですかこれは──?呆 少し目を離しただけで愛に群がる生徒達に目を見張る。 どうやら愛は人から好かれる何かを持っているみたいですね。 僕らが惹かれた何かを──…。 .... (それにしても目障りな…) (骸さーん!早くっ) (…はあ、) |