「よしっ!切り替え切り換え!」
「…」
愛は、自分の頬をバシバシと叩くと、俺の頭を撫でてきた。
「ツナってば、格好良くてときめいちゃった」
「なっいきなり…」
「ありがとうね。いつかは三人に話さなきゃならないって分かってたんだけど…まだ勇気でないや」
苦笑する愛に俺の胸は何だか騒いでいて──…、愛がもうすぐ壊れてしまうんじゃないか、なんて嫌な予感が頭をよぎった。
愛が熱だして寝込んだときに三人で誓ったこと─。¨愛の前では家族の話はしない¨っていう誓い。
タブーになっていたけど、チラツいてきた愛の家族に俺の気持ちは揺り動く。愛は言うなって言うけど、子供な俺より骸達の方がいい案を見つけてくれる気がする。
「さっき言ったよね?骸さん達には黙っててって」
「え、うん…」
まるで俺の心を呼んだのかと疑うタイミングでその話を振ってくる愛に、動揺しながらも頷く。
「あの二人、あたしが監視されてるの知ってる」
「……え」
愛が口にした事は俺が考えていたこととは全く違くて。つーか監視?何で…。
「だから二人にはまだ言えないの…、いくら二人がマフィアでもこっちの世界の人間じゃないんだから…」
頼るわけにはいかないよ、と顔を歪めて呟く愛に俺はついカッとなって反論していた。
「何でそんなこと言うんだよ!」
「?!…ツナ?」
「あ、ごめん…」
俺は酷く驚いた顔の愛から顔を逸らして、逃げるように部屋を後にした。
パタンッ─────
愛の部屋の扉を閉めると同時に溜息が零れた。何やってんだ、俺…。
「怒鳴ってどうするんですか」
「泣いてる女の子部屋に一人にしちゃダメだよ」
「ふ、二人ともいつから…」
扉に背を預け、いきなり声のした方を見上げると話の中心だった二人がいて…、二人ともバカだとでも言いた気に俺を見下ろしてくる。
いや待てよ。こんな直ぐ近くにいたなら、今までの会話筒抜けだったんじゃ…。
「愛がベランダに出たくらいですかね」
「音に敏感だからねー」
それってつまり、二人とも電話の相手知ってるって事じゃ…。
「ところで電話の相手は誰だったんですか?」
「え?」
「流石に会話までは聞こえないって普通」
僕、骸君みたいに超人じゃないしと続けた白蘭に失礼なと突っ込む骸。いつもと変わらない二人の姿に、重要なことは何一つ分かってないんだと悟る。
二人とも相手は知らないんだから、誤魔化せる。この時の俺の頭にはそんな事しかなかったんだ…。ただ、愛との約束を守ろうとして。
「愛の先輩みたいだったけど…俺もよく分かんなかった…」
「そう、ですか」
「先輩、ね」
誤魔化しきれなかったのは当然だった。二人とも怪訝な顔して俺を見下ろしているのが何よりの証拠。だって白蘭は愛が泣いてるの知ってたし…。
だけど深く追求しないのには二人がやっぱり大人で、愛との間に、先を見通して、ちゃんと保たなきゃならない距離をおいているから。
俺にはそんなこと出来ないけど。違う…、愛にはもう、そんな距離をおく必要がないから。
そんなもの必要ないからだよ──。
....
(大人って結局、)
(自分が傷つきさえしなきゃ)
(それでいーのかな…?) |