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10:(さっさと帰りなさい)

「えー、今日は楠木が熱を出して欠席だ」


「美和、連絡きてるか?」


「ううん、いつもはくるのに」


「大丈夫だって」


「……」


いつも愛と行動してる三人は少し妙に思い、颯斗は言葉すら発しなかった。ただ、自分の携帯を握りしめて、連絡が入らないかと何度も携帯に視線を落としていた。




***

「ん、……」


「あ!愛、大丈夫?」


あたしが目を覚ますと、心配そうに顔をのぞきこんでくるツナが視界に入った。


「あれ、あたし…」


ゆっくり体を起こしたら、額にのせてあったタオルが膝に落ちた。


「学校には連絡入れておきましたから、今日はそのまま寝ているといいですよ」


「骸さん…」


「はい、これ飲んで大人しくね」


「白蘭さん…」


氷枕を持ってきてくれた骸さんに、その後ろからカップを手に中に入ってきた白蘭さん。


白蘭さんは、あたしの頭を撫でて、カップを渡してきた。中に入っているのは温かいココア。


「心配しなくても愛チャンみたいに変なもの入れてないから」


「なっ、酷いですよ」


「あれに比べたら酷いも何もないよ」


苦笑しながら、側にあったカーディガンを肩に掛けてくれる彼に笑顔を返す。


「熱、下がってないみたいだけど平気?」


「…ん、なんてことな──」


心配するツナに大丈夫だと返そうとしたら、枕元にあった携帯がそれを遮った。


「…もしも──」


(お前!連絡もしないで大丈夫なのかよ!!)


キーンッ────
電話に出て直ぐに聞こえてきた颯斗の怒鳴り声に、耳から携帯を放して押さえる。


「愛…?」


「大丈夫、大丈夫」


目を丸くする三人に、苦笑して電話相手の颯斗を落ち着かせるために口を開いた。


「ごめん、倒れたみたいでさ…今目覚まして…」


(倒れたぁあ!?)


ったく、一々耳に障る声だな。そんなに大声出さなくても聞こえてるってば…。


「もう大丈夫だって」


(今から行くから待ってろ!)


「こ、来なくていい!!」


ツー、ツー──…。
来なくていいと言う前に切られた電話。あたしは放心状態で、携帯を手から放すと、それはそのまま布団の上に落ちた。


「どうかしましたか?」

「おーい、愛チャン?」

「愛?」


三人の声も聞こえなくて、これをどう隠そうか迷っていたら玄関の方が慌ただしくなった。間違いなく颯斗が来たんだろう。どうしよう───。


「どうしよ!」


「何が?俺行ってくるよ?」


郵便だとでも思ったのか、ツナが玄関に向かおうとした。あたしはそんな彼を急いで引き止めて、自分の方に引き寄せた。


「うわわ!?」


「だめっ、颯斗が来たの!ツナ達が出たら拙いよ」


そう言うと、三人は少し複雑そうな顔をした。俯いていたあたしにはよく分からなかったけど…。


「貴方は今、病人なんですよ」


「骸さ…」


「大人しく寝ていなさい」


パタンッ────
そう言うや否や、部屋を出て行ってしまった骸さん。今拙いって言ったばかりなのに!


「待って!っ…」


「愛チャン」


ベッドから下りたあたしは、熱のせいか、バランスを崩して白蘭さんに抱き止められた。


「骸のことだから、何か考えがあるんだよっ大丈夫だって!」


そう言ってくれるツナには悪いけど、颯斗は勘が鋭いの。同居してるってバレたら…。あたしの頭には、昔に颯斗に隠し事をして、怒られた時の記憶が鮮明によみがえっていた。




***

愛も何を考えて僕らに同居の許可を出したのか、今になって分からなくなってきましたよ。


最初からこうなる事は分かっていたはずだ。僕らの存在を隠さなくてはならない事がどんなに困難か──、


ピンポーン─────
先刻から鳴り響くインターホンに何故か苛ついている自分。


僕は玄関に出て扉を開けた。瞬間、飛び込んでくる一人の少年。


「な、何だよお前!」


「…」


さて、何と答えてやりましょうか…、愛を困らすのも悪くはないですが…。


「君こそ何ですか。愛は体調が悪いんです。帰って下さい」


「…アイツの何だ」


「!……」


殺気に満ちた瞳が僕に向き、先刻までの子供のような表情はどこかへ消えた。愛の事を考えて、わざわざ優しく言ってやったモノを──…。


「聞こえなかったようですね、さっさと帰れと言ったんですが」


「…てめぇ」


「お兄ちゃん!」


「「?!──」」


殴りかかってくるかと身構えた瞬間、後ろから聞き慣れた声が飛んできた。それが愛だと分かると、彼をまとっていた殺気は霧のように消えた。


「…」


「ごめんね颯斗!今日、従兄が来てて…、看病なら大丈夫だよ!あたしは、もう平気!」


そう言って僕にしがみつきながら、心配かけまいと必死に笑顔を作る愛。バカですか、貴方は──…。


「そうか、ならよかった…」


グイッ───…。
彼はそう言って愛を抱き寄せ、僕を睨みつけた。


「は、颯斗っ」


「ああ、悪い…じゃあ、ゆっくり休めよ」


愛は照れて頬を赤く染めていたが、彼はどういう訳か、わざと愛を──…。


こんな詮索は必要ないですね。僕と愛はただの同居人という関係なのですから。


颯斗と呼ばれた彼が家をあとにした後、案の定、堪えられなくなったのか彼女は力なくその場に座り込んだ。


「愛」


「…大丈夫ですから」


「どこが大丈夫なんで──」


「骸さんが一人になりたいって言ったときと同じ…、あたしだってそんな時あるよ」


僕の言葉を遮った愛は、そのまま僕も見ずにその場から体を引きずって離れた。


何故か、貴方に拒絶されたと思いたくなかった──。




....
(複雑な思いは交差して)
(君を怒らせたことが)
(余計に僕を苛立たせた)


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