「えー、今日は楠木が熱を出して欠席だ」 「美和、連絡きてるか?」 「ううん、いつもはくるのに」 「大丈夫だって」 「……」 いつも愛と行動してる三人は少し妙に思い、颯斗は言葉すら発しなかった。ただ、自分の携帯を握りしめて、連絡が入らないかと何度も携帯に視線を落としていた。 *** 「ん、……」 「あ!愛、大丈夫?」 あたしが目を覚ますと、心配そうに顔をのぞきこんでくるツナが視界に入った。 「あれ、あたし…」 ゆっくり体を起こしたら、額にのせてあったタオルが膝に落ちた。 「学校には連絡入れておきましたから、今日はそのまま寝ているといいですよ」 「骸さん…」 「はい、これ飲んで大人しくね」 「白蘭さん…」 氷枕を持ってきてくれた骸さんに、その後ろからカップを手に中に入ってきた白蘭さん。 白蘭さんは、あたしの頭を撫でて、カップを渡してきた。中に入っているのは温かいココア。 「心配しなくても愛チャンみたいに変なもの入れてないから」 「なっ、酷いですよ」 「あれに比べたら酷いも何もないよ」 苦笑しながら、側にあったカーディガンを肩に掛けてくれる彼に笑顔を返す。 「熱、下がってないみたいだけど平気?」 「…ん、なんてことな──」 心配するツナに大丈夫だと返そうとしたら、枕元にあった携帯がそれを遮った。 「…もしも──」 (お前!連絡もしないで大丈夫なのかよ!!) キーンッ──── 電話に出て直ぐに聞こえてきた颯斗の怒鳴り声に、耳から携帯を放して押さえる。 「愛…?」 「大丈夫、大丈夫」 目を丸くする三人に、苦笑して電話相手の颯斗を落ち着かせるために口を開いた。 「ごめん、倒れたみたいでさ…今目覚まして…」 (倒れたぁあ!?) ったく、一々耳に障る声だな。そんなに大声出さなくても聞こえてるってば…。 「もう大丈夫だって」 (今から行くから待ってろ!) 「こ、来なくていい!!」 ツー、ツー──…。 来なくていいと言う前に切られた電話。あたしは放心状態で、携帯を手から放すと、それはそのまま布団の上に落ちた。 「どうかしましたか?」 「おーい、愛チャン?」 「愛?」 三人の声も聞こえなくて、これをどう隠そうか迷っていたら玄関の方が慌ただしくなった。間違いなく颯斗が来たんだろう。どうしよう───。 「どうしよ!」 「何が?俺行ってくるよ?」 郵便だとでも思ったのか、ツナが玄関に向かおうとした。あたしはそんな彼を急いで引き止めて、自分の方に引き寄せた。 「うわわ!?」 「だめっ、颯斗が来たの!ツナ達が出たら拙いよ」 そう言うと、三人は少し複雑そうな顔をした。俯いていたあたしにはよく分からなかったけど…。 「貴方は今、病人なんですよ」 「骸さ…」 「大人しく寝ていなさい」 パタンッ──── そう言うや否や、部屋を出て行ってしまった骸さん。今拙いって言ったばかりなのに! 「待って!っ…」 「愛チャン」 ベッドから下りたあたしは、熱のせいか、バランスを崩して白蘭さんに抱き止められた。 「骸のことだから、何か考えがあるんだよっ大丈夫だって!」 そう言ってくれるツナには悪いけど、颯斗は勘が鋭いの。同居してるってバレたら…。あたしの頭には、昔に颯斗に隠し事をして、怒られた時の記憶が鮮明によみがえっていた。 *** 愛も何を考えて僕らに同居の許可を出したのか、今になって分からなくなってきましたよ。 最初からこうなる事は分かっていたはずだ。僕らの存在を隠さなくてはならない事がどんなに困難か──、 ピンポーン───── 先刻から鳴り響くインターホンに何故か苛ついている自分。 僕は玄関に出て扉を開けた。瞬間、飛び込んでくる一人の少年。 「な、何だよお前!」 「…」 さて、何と答えてやりましょうか…、愛を困らすのも悪くはないですが…。 「君こそ何ですか。愛は体調が悪いんです。帰って下さい」 「…アイツの何だ」 「!……」 殺気に満ちた瞳が僕に向き、先刻までの子供のような表情はどこかへ消えた。愛の事を考えて、わざわざ優しく言ってやったモノを──…。 「聞こえなかったようですね、さっさと帰れと言ったんですが」 「…てめぇ」 「お兄ちゃん!」 「「?!──」」 殴りかかってくるかと身構えた瞬間、後ろから聞き慣れた声が飛んできた。それが愛だと分かると、彼をまとっていた殺気は霧のように消えた。 「…」 「ごめんね颯斗!今日、従兄が来てて…、看病なら大丈夫だよ!あたしは、もう平気!」 そう言って僕にしがみつきながら、心配かけまいと必死に笑顔を作る愛。バカですか、貴方は──…。 「そうか、ならよかった…」 グイッ───…。 彼はそう言って愛を抱き寄せ、僕を睨みつけた。 「は、颯斗っ」 「ああ、悪い…じゃあ、ゆっくり休めよ」 愛は照れて頬を赤く染めていたが、彼はどういう訳か、わざと愛を──…。 こんな詮索は必要ないですね。僕と愛はただの同居人という関係なのですから。 颯斗と呼ばれた彼が家をあとにした後、案の定、堪えられなくなったのか彼女は力なくその場に座り込んだ。 「愛」 「…大丈夫ですから」 「どこが大丈夫なんで──」 「骸さんが一人になりたいって言ったときと同じ…、あたしだってそんな時あるよ」 僕の言葉を遮った愛は、そのまま僕も見ずにその場から体を引きずって離れた。 何故か、貴方に拒絶されたと思いたくなかった──。 .... (複雑な思いは交差して) (君を怒らせたことが) (余計に僕を苛立たせた) |