さあて、今日は久しぶりの休日。やっと、一週間の長い学校生活が終わった──。 この奇妙な同居生活も大分慣れてきて、三人とも前みたいないざこざはない。多少もめても何とかなるようになったし、ね。 「マシマロー…」 「え…?」 そんな折角の休みに、この居候さんはもう限界とか何とか呟いて机に突っ伏してる…。マシマロだって、(笑) 「何、マシュマロですか?」 「ん…」 あたしが正しく直して聞き返して、白蘭さんの前に屈むと、頼りない返事が返ってくる。 そういえば、漫画とかでも、白蘭=マシュマロだったな…。白蘭さんてマシュマロって言わないんだよね。 どうしようかと視線を泳がせていたらバチッと骸さんと視線が絡まる。 「骸さ───」 「お断りします」 「まだ何も言ってませんよ!」 そう言って抗議しようとしたら、骸さんは溜息を一つ吐いて立ち上がると、自室に戻っていった。 「ま、待ってください!」 そんな彼を自室に入る前に、引き止めたあたしは、面倒くさそうに視線をはずす骸さんに助けを求める。 「隣町で何かあると言ってましたよ」 「え?」 「行けば分かります」 そんなあたしに助け船を出してくれた骸さんは、そう言ってドアを閉めようとする。だからあたしはもう一言と、口を開いた。 「骸さんも行き──」 「一人にしてください」 パタンッ───── え─? いつもはあたしの言葉を遮ったりしない骸さんだけど、何でか今日は口数が少なくて…。 「骸さん…」 「愛?」 「え、あ…お、おはよ!」 今起きてきたのか、目を擦ってあたしを不思議そうに見つめるツナに慌てて挨拶した。 「何かあった?」 「何もないよ!」 ツナは超直感があるんだから、嘘なんて直ぐにバレちゃうんだろうけど、特に何も聞かずに流してくれた。 「それより…あれどうしたの?」 「あは、ははは…」 だよねー、と付け足し、ツナが指さす白蘭さんを見て頭を抱えた。マシュマロっていっても、市販のお菓子じゃ駄目なんだろうし。 そう考えを巡らせていたら、先ほどの骸さんの言葉が頭を過ぎった。 ─「隣町で何かあると言ってましたよ」 「あ!」 「「?」」 思い出した!美和が言ってた隣町で開催のスイーツ・フェスタ! あたしがいきなり声を上げたので訳が分からないのか首を傾げる二人。そんな二人もお構いなしで白蘭さんの手を取る。 「白蘭さん!マシュマロ買いに行きましょう!」 「え?」 「マシュマロ?」 白蘭さんには意味が通じたのか、顔を上げてあたしを真っ直ぐに見つめてきた。ツナは起きてきたばかりだから状況を把握しきれていないみたいだけど。 「確か、このシーズン、スイーツ・フェスタやってるんですよ!」 「マシマロあるの?」 「ありますよ」 あたしが自信満々の笑顔を向けたら、白蘭さんも笑顔を返してくれた。 「よし、じゃあ早速行こう!」 「うん」 「え秤エも─!?」 あたしはツナと白蘭さんの手を掴んで、ブンブン振った。それを部屋からそっと骸さんが見ていたのは知らない。あたしはただ二人と買い物に行くとしか頭になかったから。 *** バタバタと準備をしているのか、走り回る足音が静かに響いて。それが妙に懐かしく感じられるのは何故でしょうね──。 「骸さんのご飯用意しなきゃ!」 「愛チャンがやると余計に手間がかかるよ」 「そんなことないですよ!っあ!」 パリーンッ──── 「言ったそばから割ってるし…」 「ツナが言うな!」 「えっ」 全く何をして────!? 無意識にドアノブに伸びていた手を見て、今更ながら目を見開いた。 「…クハハ、ハ…何をやってるんでしょうね…僕は──」 ここ何ヶ月か愛とあの二人と生活を共にすることで、どこかおかしくなったんですかね。 ドアに背を預け、前髪をかきあげる。いつの間にか当たり前になっていたこの生活───。 ¨干渉しない¨ 僕らの間での暗黙の了解だったはずのそれは、今では自己を保つための鎖となり、 ¨喧嘩しない¨ 愛のその言葉がいつの間にか定着し、敵と馴れ合い、 ¨平凡な生活¨ 僕らにとって非日常的な今が、当たり前で心落ち着くオアシスと化した。 コンコンッ──── その時響いたノックに落ちていた思考を止める。誰がノックしたかなど気配で分かりますからね。 「骸さん、あのっご飯用意しておきましたから、よかったら食べてくださいね!行ってきます!」 「……」 愛はそれだけ言い残すと、慌てたように玄関へ向かった。鍵のかかる音が聞こえてから、僕は部屋から出てリビングへ。 食卓のテーブルには、綺麗とは言えないが、並べてある昼食。他人からこういったことをされるのは初めてだった。 その側に添えて置いてある一枚の走り書きのメモを手に取り、椅子に腰掛ける。 _メモ_ 骸さん(>_<) ご飯、食べなきゃ駄目ですからね! お土産、買ってきます! By愛 「…バカですね、愛…」 何故僕に構うのですか? 放っておけばいいでしょう? そう思う反面───── 心の奥底では、別の感情がまるでピアノの旋律のように穏やかに流れていた。 .... (不器用な君が用意した手料理は) (どんな物よりも美味しく感じた) |