「ふぃー…間にあったー」 あたしは、予鈴のチャイムと同時に教室に滑り込みセーフ。全力疾走したからね! 「愛にしては珍しいじゃねぇか」 ビクッ──── ある男の声を聞いて肩が震えた。朝から声をかけられるなんてついてない。今日は厄日中の厄日だ。 「なあ?」 「う、うん…」 あたしの肩に回されたその手に虫ずが走る。気持ち悪いっ。誰か助けて。 「愛に触んじゃねぇ」 パシッ─── 「颯斗っ」 それを助けてくれたのは颯斗だった。その男の手を掴み、捻りあげてあたしを助け出してくれた。 「ち、」 男は、舌打ちしてあたし達の前から消え教室を出ていった。何とか助かったー。 「大丈夫かよ」 「余裕…じゃなかったよー」 「だろーな、」 アホ、と頭を小突かれて頭に鈍い痛みが走った。ホント、ついてないな、あたし。 「愛ー!大丈夫!?朝からアイツに絡まれたってー!」 「わっ!」 いきなり飛びついてきた美和に、その後ろを追いかけてきたのか、息を切らして走ってきた和磨。美和ちゃん、彼氏さん可哀想じゃないか; 「大丈夫?何もされてない?」 「平気、颯斗が助けてくれたから…」 「颯斗、話がある」 「あ?ああ…」 あたしが美和に無事を知らせると、和磨は颯斗を連れて教室を出ていった。あのー…、もう予鈴なりましたが…、ホームルーム始まっちゃうよ! 「美和…あの二人」 「うん、和磨がアイツについて分かったみたいでさ…」 「え?」 あたしが聞き返そうとしたそのときに本鈴が鳴り、担任が教室に入ってきた。 だから、アイツの話はここで打ち切りとなり、教室を出てった二人は暫くして何事もなかったかのように戻ってきた。 _昼休み_ あたし達四人は、いつもの様に屋上に来ていた。空は快晴、外で食べなきゃ損だよね。 「あれー?今日、お弁当凄いじゃん?」 「ホントだ美味そう!」 美和と和磨が言うとおり、ホント美味しそう。きっと、骸さんが作ってくれたんだよね…。 そう、思うとつい頬が緩んで自然と笑みがこぼれてしまう。 「なに、笑ってんだよ」 「煩い!」 訝しげにあたしを見る颯斗に一喝して、お弁当に手をつけようとしたら、いきなり携帯が鳴り出した。 あ、言っとくけど昼休みだけマナーモード解除してるだけだから! 「は、はい…もしも─」 (愛、カード何処ですか) 「え!?む、骸さん!」 (はい、何か?) 「骸って誰?」 「男だろ?」 「誰だよ!」 あーあ!皆が何か変な誤解してる!!あたしは、受話器口を手で押さえてからちょっと、ごめんと言い残し屋上から飛び出した。 それで誰にも聞かれないだろう、人通りの少ない階段に腰を下ろしてから電話にでた。 「ごめんなさい、それで何でしたっけ?」 (カード、何処ですか?) 「キャッシュカードですか?」 (ええ) 骸さんがそんなこと聞くって事は買い物にでも行くのかな? 「えっと…、あたしの部屋の戸棚開けて一番奥の箱の中です」 (分かりました、では失礼し…) 「あ、あのっ」 あたしは、骸さんが電話を切り掛けたのを無理矢理引き止めた。 (はい?) 「お弁当、有り難う御座いましたっ」 (!…クフフ、本当におかしな人だ、貴方は──) 「え?」 (いえ、ではまた) 「あ、はい」 ツーツーと繰り返される電子音に携帯を切ると、立ち上がって特に気にもせず、皆がいる屋上に戻った。結局、何を買うのかとか聞けなかったけど、まあいっか。 *** 「骸、愛何て?」 骸が受話器を置いた所で、ひょいと顔を出したツナは少し不安そうにそう問いかけた。 「特に何も、カードの場所もあっさり教えてくれましたし…」 「そっか」 特に何も聞いてこなかった事に安心して、ホッと一息つくツナに白蘭が横から口を挟んだ。 「愛チャンて、人疑わないよねー」 椅子の背に腕をかけ、もたれながらニコッと笑う彼を二人は訝しんで見つめた。 「それが愛の長所だし…?」 「まだ出会ったばかりですよ」 「うっ…」 そうは言われるものの、ツナには直感的に愛に感じる何かが確かにあった。 「でも骸君も何かあの子に一目置いてるみたいだけど」 笑っていた白蘭が、目を開眼し、骸を真っ直ぐに見つめた。それに対して骸は視線を逸らす。 「……違います」 「朝の出掛けだって、そうじゃなかったかな?」 「…」 ちゃっかり見られていたのかと思うと、何も言い返すことが出来なかった骸。かといって変な誤解をされたら困ると、口を開く前に白蘭が口を挟んだ。 「愛チャンは取らないでね」 「は──?」 「え──?」 まるで、自分の女に手を出すなと言いたげな表情に、二人はただ驚きを隠せず、白蘭を凝視した。 「あんな子、滅多にいないじゃない」 白蘭が言うあんな子とは、男に媚びる女ではなく、愛の様に自分の意志をしっかり持ち、真っ向からぶつかってくる度胸がある者のこと。 白蘭的には、新しい玩具を見つけた子供のような心境なのだろうが、二人はそういう風に解釈していなかった。 「バカな、僕は愛のような女性は対象外です」 「骸?」 骸は、白蘭の言葉を鼻で笑ってまるで自分に言い聞かせるように呟いた。ツナはそう、感じていた。 「まあ、僕だって恋愛対象には見てないよ」 「え狽ウっき、手出すなって…」 「そりゃあ自分の所有物取られたら嫌でしょ?」 「所有物って…(汗」 愛の立場が危ういよ!とツナが心の内で思っていたのは秘密───。 *** どうかしてる。朝といい、今といい。 人間は嫌いだ───。 平気で他者を裏切る極悪非道な輩の固まりじゃないですか。 愛とて、自らを犠牲にしてまで僕らを帰す気などなかったはずだ──…。 僕らを知っていた彼女なら、綱吉がそうはさせないと性格上理解していただろう。 「何を迷っているのか──」 一人、歩く今も何故あの女の事が頭を過ぎるのか自分でも分からない。 全く、愛の存在は僕の築き上げてきたモノを全て無に返そうとしているようですよ。 「あ、骸さん!」 「───……」 噂をすればなんとやらですね。手を振って走り寄ってくる愛を見て、一つ溜息をついた。 .... (買い物ですか?) (ええ…) (何浮かない顔してるんですか) (貴方を見ていると、そうなるんです─) (え) ─────…… (冗談ですよ) (え!あ、待って下さいよ!) 夕日が沈む先に浮かぶ二つの影。 |