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10:(ただ君が愛しくて)T

「失恋しましたーって顔してるわね」


「うっ」


「あら図星?」



俺が愛の部屋まで来てノックしようと手を伸ばしたとき、中から聞こえてきた神童さんと愛の会話にその手は力なく垂れ下がった。


俺の話、してる──。


直感的にそう思った俺は、ダメだと分かってはいたけど盗み聞きすることにして扉を背に耳を澄ませていた。


「告白する前に撃沈」


「え、まだ言ってないの?!」


「う、うん……」



告白──?
それってあの時、俺が愛に言おうとしたことと同じっだって思ってもいいんだよな?


「沢田じゃん」


「!霧島さん……」


俺が聞き耳を立てているところにいきなり現れたのは、霧島颯斗。合宿所に来てから初めて会った気がする。


「愛に用があるから来たんじゃねーのか?」


「え、や…でも何か話してるみたいだし……」


盗み聞きしてるなんて言えなくて、咄嗟に今来たら大事な話をしてるみたいだから外で待っていたと誤魔化した。


「あたしには出来ないよ…っ、傷つくって分かってて気持ち伝えるなんて、…そんなこと出来ない!」


俺が誤魔化して直ぐに扉の向こうから、愛の悲痛な叫びが聞こえてきた。それは俺がさっきまで考えていたものと同じ結論で、愛も同じ風に苦しんでるんだと思うと、じっとしてるなんて出来なくて──。


「沢田」


「!──、え?」


部屋に飛び込もうとした俺に投げられた何かを反射的に受け取ると、霧島さんは優しく微笑んでくれた。


「それで薬の効果はなくなる。それ飲んで、アイツのこと頼むな」


「!──、霧島さん…」


「じゃあな」


それ以上何も言わずに、俺に背中を向けて後ろ手で手を振って去っていく霧島さんの後ろ姿を見つめながら、貰った薬を握りしめる。


俺がしっかりしなきゃなんないんだ。


「ツナには幸せになってほしいの!あたしなんかの所為で、悩んだり悲しい顔してほしくないっ!」


俺が扉を開けて中に入ったとき、愛が泣き叫んだ言葉に本当に同じ事考えてるし、と心の中で自分で突っ込んで笑ってしまった。


「──、─!」


そんな俺に気づかずに涙を流す愛に対して、顔を上げた神童さんは俺の姿を見て大きく目を見開いた。そんな彼女に俺は自分の口元に人差し指を持っていって黙っているように合図した。


それを分かってくれたらしい神童さんは、頷いて泣き崩れている愛の肩にそっと手を置いて笑いかけた。


「愛が、沢田を好きな気持ちに迷いはないわよね?」


「え…?」


え──、
神童さんが愛に問いかけたそれに俺まで愛と同じ反応をしてしまった。つーか、俺の前でそれ否定されたら流石に傷つく;


「沢田を好きな気持ちは誰にも負けないわよね?」


「そんなの当たり前じゃんか…っ、ツナが大好きだよーっ」


だけど俺が心配していたような事態にはならなかった。愛の口から紡がれた言葉に嘘はないことくらい直ぐに分かったから。


「俺も、愛が大好きだよ」


「!──」


気がついたらそう言って、後ろから愛の体を自分に引き寄せて抱きしめていた。大きく跳ねた肩に拒絶されたらどうしよう、なんてことは一切考えなかった。


だってさ、今さっき愛の素直な気持ちを間近で聞いたんだから。悲観的になる必要なんてないじゃん。


素直な気持ちを聞かせてくれた愛に俺が伝えたいのは、ただ一言だけ。


「愛、素直になっていいのよ」


「ふ、うっ」


神童さんの言葉に愛を抱きしめている腕を抱きしめ返されて、それに応えるように俺も抱きしめる腕に力を入れた。もう一押しだよな…。


「愛、こっち向いて」


「っ!──、ツナぁあっ!」


俺の言葉が最後の一歩を踏み出す鍵となったのか、勢いよく振り返って抱きついてきた愛を抱き留めて、ギュッと抱きしめる。


それを確認して安心したのか、神童さんは俺に愛を頼んで部屋を後にしてくれた。


途端に訪れた静寂と、愛の鼻を啜る音が辺りに響いて、俺の服を掴む愛の手は小刻みに震えていた。


「うっ、ヒック……ぐすっ」


「愛、今さ…、幸せ?」


泣きやまない愛の髪を撫でながら問いかけた俺自身、その問いには頷けない気がした。


「ちょっと、だけ…」


ほらな?…今日別れるのに何か複雑に感じるのは、もう会えないかもしれないって不安からくる。だけどそれはどうしようもない事だから。


「でもね……」


「?」


俺が余計なことを考えていた間に、いつの間にか涙を止めた愛の笑顔が目の前に広がった。


「さっきよりも、ずっとずっとツナが大好き。もう少しだけど、それでも気持ちの通いあったままで、最期まで一緒にいたい」


「愛……」


「ねぇ、ツナ。あたし我が儘かな?」


愛が羞恥心を捨てて素直に今の気持ちを伝えてくれた。その言葉が俺の中にあった不安を一気に取り除いてくれて、目の前にいる愛がただ愛しいって気持ちで溢れた。


「そんなの全然我が儘じゃないじゃん。…もっと我が儘言っていいくらいだよ」


俺が愛の頬に手を伸ばしてそう言えば、照れ笑いを返す愛が可愛くて、愛しくて溜まらない。


何か俺の方が我が儘言っちゃいそう。だけど、きっと愛なら受け入れてくれるような気がした。


「愛、」


「ん…っ」


優しく触れた唇に、最初は驚いていた愛だけど直ぐに俺に身を預けてくれた。暫くこのままでもいいかなって思うと、歯止めが利かなくなるんだけど。


その時はその時で──。




....
(ツナっ……ん、待っ──)
(無理……)
(んんっ!(息できない!)

─────
(止めないと愛チャン窒息死だね)
(悠長に構えている場合ですか、)
(だって見たくないじゃない。好きな子が他の男とキスしてるとこなんて)
(…、今は仕方ないでしょう)
(後で綱吉君、半殺しにしちゃうかも)
(それも仕方ありませんよ)
(流石、骸君♪)


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あきゅろす。
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