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16:(ヤキモチ妬きな君)Mnormal
I wish
(私は願う)
that you who got away
far are happy.

(遠く離れた君が幸せである事を)

颯斗ハッピーエンド



あれから何年経ったのかな。三人があたしの家に突然現れて、叶わないって分かり切っていたのに貴方に恋をして、さよならも、お礼さえも言えないままお別れになった。


その時のことは今でも鮮明に覚えてるし、あの時に強がらずに我が儘言っていたなら、今は少し変わっていたのかな、なんて時々思ったりするんだ。


だけどね、あたしは今凄く幸せです。


「愛、そろそろ中入れよ。風邪引くだろ」


「あ、うん」


今あたしはベランダで風に当たってたんだ。部屋の中からあたしを呼んだのは、今じゃあたしの旦那様となった颯斗。そう、あたしはずっと傍で支えてくれていた彼と、半年前結婚したの。


今は新婚ホヤホヤなんだけど、ちょっと物足りなく感じてるのは、昔みたいにバカ騒ぎできないってとこかな。颯斗ってば大人になっちゃって、全然あたしと遊んでくれないんだもん。


「こら、聞いてんのか」


「わっ」


返事だけ返して部屋に戻ってこないあたしを心配したのか、ベランダに出てきた颯斗にかけてもらった上着を抱きしめて、隣に立った彼を見上げる。


「何だよ」


「ハヤト君元気?」


「…おう、元気」


「最近出てこないね」


あたしは、彼の中にいるもう一人の人格、通称ハヤト君が最近表に出てこないから少し気になってたりした。何かたまに出てきてお喋りするの楽しかったから。


「まあな、アイツに話でも合んのか?」


「ううん、別にそういう訳じゃないんだけど…ただ元気かなあって思って」


本当にそれだけ、別に深い意味なんてなかったんだけど、颯斗は何かが気に入らなかったみたいで、いきなりあたしの肩を抱いて自分に引き寄せた。


「颯斗?」


「ホントはさ、骸達のこと考えてたんだろ?」


「わ、颯斗ってば超能力者?」


「ふざけんなって」


コツンと小さく小突かれて、わざと誤魔化したあたしの気持ちは、簡単に彼に見透かされてしまった。結婚したって言うのにあたし最低だよね…。


だけど、あたしが颯斗を愛する気持ちは偽りじゃないよ。言い訳に聞こえるかもしれないけど、今あたしが愛してるのは間違いなく颯斗だから。


ただ、たまに彼らと過ごした日々を思い出すと、どうしようもなく好きだった人、短い間だったけど、愛し合った骸さんが頭を過ぎる。


別に未練があるわけじゃないし、今の生活が退屈だとか、そんなことを思ったりはしない。


だって、あたしの傍には颯斗がずっといてくれる。こんな幸せなこと他にあるわけないじゃない。


あ、でも一つだけ合った──。


「ねぇ、颯斗──」


「ん?」


「今日ね、颯斗の誕生日だから。あたしからプレゼントがあるんだ」


「何くれんだよ?」


クスッと笑ってあたしの頭を撫でてくれる颯斗の手をそっと握って、あたしのお腹に持っていく。


「お、ダイエットでも成功したか?」


「ち、違うわよバカっ!」


その行為をどう解釈したらそんな結論に達するのか知らないけど、笑ってサラッと恥ずかしい事を言う颯斗に、つい赤くなってムキになってしまった。


だって、あたしが太ってたみたいな言い方して、まあ元が幼馴染みだからその辺の気遣いがないっていうか、そっちのが気が楽でいいっていうか──。


「怒るなよ。で何?」


あいた方の手で、また頭を撫でてくれる颯斗に苛ついていた気持ちは一瞬にして飛んで、話す為に、一度深呼吸をしてから颯斗を真っ直ぐに見つめた。


「赤ちゃん、三ヶ月だって」


「は?赤ちゃん?」


「そう。颯斗とあたしの赤ちゃんがここにいるんだよ」


全く考えもしていなかったのか、吃驚して目を見開く颯斗が可笑しくて笑いながら、あたしのお腹の前に持ってきた颯斗の手をぎゅっと強く握った。


「俺と愛の子──、」


「うん」


「産んでくれるのか?」


「えっ産んじゃダメなの?!」


いつになく下手(したて)に出る颯斗にそんな真面目に聞かれたら、逆に不安になってきて、問い返したあたしはどうやら凄い顔をしていたようで──。


「ははっ、んな驚くなよ。顔凄いことになってんぞ」


「え狽ト違う!颯斗が変なこと聞くか──!」


あたしが全てを言い終わる前に、颯斗の温かい腕の中に引っ張り込まれて、そのままギュッと力強く、それでいて優しく抱きしめられた。


「悪い。嬉しすぎて何て言えばいいか分かんなかった」


「颯斗……」


「産んでくれるよな?」


「もちろん!」


コツンと額同士を合わせてあたし達は笑い合った。生まれてくる我が子にたくさんの幸せが訪れること、それだけを祈って。


そして、あたしにたくさんの事を教えてくれた貴方がこの空の続く先、遠い遠い世界で幸せである事を願っています。


ありがとう、骸さん──。




....
(骸さんの名前もらおっかなー)
(は?ぜってーやだ。骸みたいに性格ねじ曲がったらどうすんだよ)
(颯斗言い過ぎだって)
(お前がそんなこと言うからだろ)
(!やだなあ、あたしが今一番に愛してるのは颯斗だよ?誰に妬いてるの)
(う、うっせーなっ!)

-fin-
後書き


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あきゅろす。
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