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14:(最初で最後の)M

「よくここまで来たな、愛」


たどり着いた最後の扉の奥。僕と愛を出迎えたのは、ソファーに座ったままの無表情な紫苑。そして、その奥には眠っている愛の大事な家族の姿。生きていたんですね。


僕がそちらに意識を向けていた間に二言三言言葉を交わしたらしい愛は、僕の方を見上げて繋がれた手を引いた。


「骸さん、手、離すね」


「───」


ギュッ────
紫苑の元へ近寄らなければならないのは分かります。ただこの手を離したら最後、僕と愛を繋ぐ糸が切れてしまう。そうなれば、僕がここに留まり続けられる時間も限られる。


「骸さん」


そんなことを考えていたせいか、愛の手を握る力が先ほどより強まっていた。それを見越してか、もう一度僕の名を呼ぶ愛にハッと我に返る。


「!……気をつけて下さいね」


「うんっ」


この手を離したくはなかった。幻術で隠していた体の透け具合も、もう保てそうにない。


せめて、愛がこの腕の中に戻ってくるまでは、それまでは、ここに留まりたい。


(骸、)


「!──」


僕がそう願ったときだった。頭に直接響いた綱吉の声に振り返ったが、当然の如くそこに彼の姿はなかった。


だとすれば、向こうに帰ってから直接僕に届くように呼びかけているんでしょうね。


(ご名答)


「用件を言って下さい、」


愛は今、紫苑を必死に説得していますから僕の小さな呟きまでは届いていない。そう判断した上で問い返す。


(単刀直入に言うよ。骸がこっちに帰るまでに残された時間はあと数秒だ)


「───」


数秒──?それじゃあ愛と別れの挨拶すら出来ないじゃないですか。


(だけど、白蘭の協力もあって時間が延長できる)


(僕に感謝してよねー)


「どれくらい時間に余裕が出来るんですか?」


白蘭が綱吉に、いや僕に協力してくれていることは予想外でしたが、今は貴方に感謝の言葉を告げる時間さえ惜しい。そうでなくとも言うつもりはありませんが。


(骸君、考えてることだだ漏れだからね。こっち帰ってきたら覚えておきなよ)


(ちょ、時間ないのに喧嘩すんなよ!と、とにかく延長できる時間は数分しかないから!その間に頑張って!)


ブチッ─────
本当に用件だけ告げて切れた頭の中の通信に残ったのは苛立ちと焦燥心。何ですか白蘭のあれは。帰ったら覚悟するのはそちらの方でしょう。


それでも、体の透け具合が元に戻ったことから時間が延長されたことを悟ると、目の前にいる愛に視線を向けた。


「誰がなんと言おうと、あたしが紫苑さんの支えになるよ」


時間がない。それだけが頭を支配していたはずなのに、愛が必死で救おうとしている姿を見ればそこに飛び出すことは出来ない。


ならば残された選択は一つですね。こちらの世界で使う最初で最後の強力な幻術。僕が消えてから愛に伝えて欲しいものを形として残して行くしかない。


「俺は、償えるのか……?」


震えた声で、不安な色を灯した瞳で愛を見つめる紫苑の言葉に、きっと貴方は微笑んでいるのでしょう。


「うん、償えるよ」


愛がそう言った瞬間、幻術の構築は終わった。紫苑も本来在るべき人格に戻ったようです、ね。


「愛ちゃん……」


「!──、っ……お帰り、紫苑さん」


愛の声からして泣いているのは顔を見ずともわかった。これで全て終わった──。良かったですね、愛。


愛が振り返る寸前、僕の身体は完全に消えてなくなる。本来あるべき場所に帰る。さよならは、言いませんよ。


(む、くろさん──?)


「お帰り、骸──」


僕が戻ってきたのは、ボンゴレ日本支部のアジト。何故か白蘭もいるというミスマッチに僕が加わり、その場にいた十年前の守護者たちは目を丸くしている。


そして、スクリーンに映し出されているのは先程まで僕がいた愛の世界。何故通信機器で繋がっているのかという疑問より先に、愛の涙に胸が押しつぶされるような錯覚に陥る。


バンッ────


(兄貴!愛!)

((愛!))


(いやぁあああ─!!!)


そしてそこに駆けつけた颯斗を含めたあの三人に安堵はするものの愛の悲痛な叫びにスクリーンを見ていることが出来なかった。


それは白蘭も、綱吉も同じでしょう。あの時間を共に過ごした同居人なのですから。




....
(十代───、)
(今はそっとしといてやれ)

────
(早く、幻術が働けばと)
(それだけを願った)


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