「行ってくるね」 「私たちはずっと待ってるから」 「気をつけてな」 「うん!」 最後の打ち合わせが終了した後、美和と和磨を残して、あたしは、骸さんと白蘭さんとツナと一緒に別荘のからくり屋敷に正面から侵入成功。 この屋敷のどこかに、紫苑さんとあたしの大切な家族がいる。そして、タイムリミットは一時間と少ししかない。 「急ごう、時間がない」 ツナは超死ぬ気モードになって先陣を切って、あたしの手は骸さんによってしっかり握られている。白蘭さんは後ろに警戒を払いながらあたしの後ろにいてくれて。 「早速、囲まれたねー」 「え?」 侵入して数分もしないうちに、大ホールで四方を囲まれた。白蘭さんの言葉でやっとあたしが気がついたときは、既に骸さんの背中に庇われていた。 「愛、僕から離れないでくださいね」 「!はいっ」 骸さんからかかった声に頷いて握った手は彼によってしっかりと握りしめられ、もう一方の骸さんの手には三叉槍がしっかりと握られていた。 「突っ切るぞ」 「うん、それが妥当、かな!」 「うがっ!」 バキッて音が聞こえたかと思ったら、誰かが地面に倒れていて、しかもその人の手には拳銃が握られていた。もしかしなくても、今この別荘で待ちかまえていた人たちって皆、こんな物騒なもの持ってるの? 「愛チャン、前だけ見て」 「えっ…」 「君が目指すのは、紫苑がいる場所だよ。汚い仕事は全部僕らが引き受けるから、みなくていい」 振り返ったあたしに向けられた白蘭さんの言葉は冷たくて、初めて出逢ったときみたいなミルフィオーレのボスである彼に戻ってしまった気がした。 一度もあたしを振り返らずに紫苑さんの部下をなぎ払っていくその後ろ姿に、白蘭さんなりの別れの準備だと悟ると、あたしも彼に背を向けた。 「ありがとう、白蘭さん」 「!──」 お礼にいつもは返ってくるはずの返答はなかったけど、それは仕方のないこと─。あたしが今成し遂げなきゃならないのは、紫苑さんを救って、平穏な日々を取り戻すことなんだから。 「これじゃ埒があかない。骸、愛を連れて先に行け」 「!──、それが最善ですか」 「っ!皆で行かなきゃダメだよ、骸さんっツナ!」 白蘭さん同様、紫苑さんの部下を殴り飛ばしていたツナは、開いた奥の扉を顎で指して、骸さんだけにそう告げた。最初からあたしの意見は聞き入れないとでも言うかのように。 「愛チャンがいたら足手まといだって事くらい、分かるよね?」 「──っ」 「今だ、行け!」 あたしを思ってのこと、そんなの分かってるのにっ。ツナの言葉を合図に骸さんに手を引かれて扉の奥に飛び込んだ。扉が閉まる瞬間、振り返ったあたしに見えたのは二人の頼もしい背中。 「愛、今までありがとう」 「自分の幸せ、掴むんだよ」 バタンッ───── 重く厚い扉が、あたしと骸さんと、ツナと白蘭さんを大きく分断した。そしてこれが二人との最後の別れ。 「気障な台詞だな、相変わらず」 「君に言われたくないね、綱吉君」 二人はお互いに笑うと、真っ直ぐに前を見据えた。それに合わせて首から下がる愛から貰ったリングがキラリと輝く。 「足、引っ張るなよミルフィオーレ総代将」 「その台詞そっくりそのまま返すよ、ボンゴレ十代目」 閉まった扉を背に、今後決してみられないであろうボンゴレとミルフィオーレの協力を二人は成し遂げる。 愛する愛のために──。 *** 「何でっ……あたしまだお礼も何も言ってないのにっ!」 扉が閉まる寸前に二人はあたしに別れの挨拶を向けた。なのに、あたしはそんな二人に何も言ってあげられなかった。こんな終わり、ないよっ! 「愛」 「骸さんっ」 「二人の気持ちを無駄にするんですか?」 怒気のこもった声。あたしを試すような骸さんの瞳に、零れ落ちる涙を拭う。あたしはこんなとこで泣いてるわけにはいかないじゃない。 立ち上がったあたしに微笑んでくれた骸さんは、そっとあたしの手を握ってくれた。もう、あんまり人の感覚がしないのは、彼の手が透けてるから。 だけど確かにある骸さんの温もりは本物。幻覚で誤魔化そうとしてくれてる骸さんの気遣いに痛む胸を抑えて、最後の部屋へと続く階段を上がる。 この先に何があっても、あたしは受け入れて頑張るから、だから──。 .... (骸さん、最後まで傍にいてね) (!当然、最後まで傍にいます) |