「あでっ」 「大丈夫ですか?」 「愛チャン、典型的な運動音痴だね」 「俺より酷い人、初めて見た」 本日滑り初めて何度目かになる転倒に、優しく手を差し伸べてくれるのは、つい先刻両想いになりました骸さん。ほかの二人は酷い発言なされましたので知りません。 「ありがとっ骸さん」 「どういたしまして」 助け起こしてくれた骸さんに笑いかけて、お礼を言えばニコッと笑い返してくれた。うん、今何も考えられないくらい幸せー。 「愛チャン、顔がニヤケてるよ」 「うっ」 「ははっ、可愛いなあ」 骸さんの手を取ったまま、白蘭さんに指摘されたことに真っ赤になって俯けばくしゃっと頭を撫でられた。白蘭さんて絶対あたしからかうの好きだっ! 「白蘭、僕の愛にいつまで触れてるつもりですか」 「おー怖、骸君嫉妬深いんだから」 「余計なお世話です」 プイッと顔を逸らした骸さんを可愛いとか思っちゃってる辺り末期だな(笑)でも、何だか嫉妬してくれることがこんなに嬉しいだなんて変なの。 お別れは今日だって言うのに皆と普通に笑っていられるなんて凄く不思議。あたしも何でか冷静でいられるし、今のところ天気は良好だしね。 嵐になったら最後、三人との別れのカウントダウンが始まってしまうから。 「愛どうかした?」 「え?」 「何か浮かない顔してるけど…」 「どこか怪我でもしましたか?」 ツナに指摘されてハッと我に返ったあたしは、心配そうにこちらを見てる三人に何でもないと、笑顔を向けた。そうすることで自分に言い聞かせるかのように。 *** 思いっきり遊びほうけてきたあたしたちがホテルに戻ってきたのはお昼過ぎ。和磨も遅れて合流したみたいで。恐れていた天候も大分悪くなってきて、雪がチラホラ降ってきてる。 「ツナ」 「なに?」 皆が部屋に集って、今から最後の打ち合わせとなった時、あたしはツナだけを部屋の隅に呼んで、颯斗から預かっていた薬を手渡した。 「これ──、」 「薬だよ。これ飲んだら完全に解薬されるから、向こうに発つ前に飲まなきゃ」 目を丸くして薬を凝視していたツナは、あたしの言葉を聞き入れて頷くと、あたしが手にしていた水の入ったコップを受け取って一気に飲み干した。 だけどあたしの考えが正しければ、副作用が生じてしまうケースが高い。 「ありがとう、愛」 「え?ツナ、何ともないの…?」 そう思って心配していたあたしの思いを打ち砕くかのように笑顔を向けてくれたツナは、あたしの問いかけにも何ともない、って言い通した。 ツナもあたしと一緒で強がるタイプだ。もしかしたらと思って額に手を伸ばすけど、熱もないようで、いたって正常だった。 本当にあたしの思い過ごしなんだろうか。だったら何でこんなに胸騒ぎがするんだろう。 「愛、沢田。そろそろ最終打ち合わせすっぞ」 「ほら愛、行こ」 「う、うん」 何ともないことを祈るしか今のあたしには出来ないのかな。その不安を抱いたまま、あたしはツナに手を引かれて皆の元へと戻った。 「愛、どうかしたんですか?」 「ううん。何でもない」 ギュッと骸さんの手を握ってあたしの今ある不安感を取り除いてもらう。あたしが不安になってちゃ、成功するものもダメにしてしまうかもしれないから。 「この僕が傍にいるんです。何の心配もいりませんよ」 「はいっ」 それに応えるように握り返された手。あたしの心を渦巻く不安は徐々に薄れていってくれた。 やっぱり骸さんはあたしの一番だよ。 .... (そこの二人、その恋人オーラうざい) (うざいって!九条君酷いッ!) (羨ましいだけですよ、放っておきなさい) (言うじゃん、六道さんよー) (クフフ、土下座しようと愛は譲りませんよ) (誰が土下座なんかするか!) ─── (骸ってあんな性格だっけ?) (うん、かなりひん曲がったね) (いつの間にアイツ等できたんだよ?) (私に聞かないでよ、和磨) |