「俺、お前が好きだ」 「───」 颯斗の元に来たあたしが、彼から告げられたのは颯斗の気持ち。だけどあたしは貴方の気持ちに応えることは出来ない。それはきっと颯斗も分かってるよね。 「ごめんなさい」 「!──、」 「あたしは骸さんが好き…だから、颯斗の気持ちには応えられない」 あたしがハッキリとそう伝えれば、颯斗の目は大きく見開かれてから凄く穏やかな表情になった。 「颯、──!」 「惚れたのが愛でよかった。俺、お前が幸せならそれでいいなんて大人な考えもてないけど、……けど、幸せになんなきゃ許さねーからな」 突然、抱きしめられたかと思ったら小さくだけどあたしを想って言ってくれたんだって事は凄く伝わってきた。 「ありがとうっ」 幸せになれるかなんて愚問。別れが目の前まで迫ってきてるのに、その先に幸せがあるなんて─、そんなの…。 「あ、大事なこと忘れてた」 「え?」 あたしがお礼を言ったところで、体を離された。大事なことって今の告白とは違うものみたいだし。何だろ? 「ん、」 「これ──、」 「沢田の解薬剤。これで発作に苦しまなくて済む」 あたしの手に乗せられた薬は、あたしと九条君が頑張って精製したものとそっくりな錠剤。これでツナが助かるんだ…、もう苦しまなくていいんだ。 「!──、颯斗は……?」 「ん?」 「颯斗は解薬、しなくて──」 「俺は時間オーバーだからな」 「そんな……っ」 あたしの言葉を遮って、一番達したくなかった結果になってしまった事実を突きつけられた。時間オーバー?てことは、颯斗の人格が消滅しちゃうってことじゃない。 あたし、一番救わなきゃならない人を救えなかった──。 「バーカ、手紙にも書いただろ?俺ともう一人の俺は同じなんだって。俺の人格が消えちまうことはねーよ」 「ほんと?」 あたしの考えていたことを察したのか、颯斗に頭をポンポンと優しく撫でられて、確かな安心感が胸の内に広がった。 「おう、それからさ…、もう一人の俺が悪かったって」 「え──?」 悪かった──?どうしてもう一人の颯斗があたしに謝るの?貴方を生み出してしまったはずのあたしが本当は謝るべきなんじゃないの? 心底不思議そうにして首を傾げているあたしを見て、苦笑する颯斗はスッと目を閉じた。 「颯斗?」 「……、愛」 「!──、」 次に目を開けたときは、ガラリと雰囲気が変わっていて、それはあたしのよく知る颯斗じゃなかった。そう、颯斗の中にいるもう一人の──。 「俺を憎いと思わないのか?」 「どうして?」 「俺は、お前を傷つけ──!」 哀しそうに瞳を揺らす彼に問いかければ、予想通りの答えが返ってきそうだったから、人差し指を彼の口元に押し当てて、その先の言葉を遮った。 「颯斗を生かしてくれてありがとう」 「!?」 「貴方には感謝することはあっても、憎んだり恨んだりなんてこと絶対にない」 「───」 確かに初めは憎く思った。それは事実だし、隠すつもりもないけど、今そんな感情を抱いていないのも事実なんだよ。だって、貴方がいたから颯斗と本気でぶつかり合えた。知らなかったこと、分かってなかったことを分かることが出来た。 これって全部が全部、貴方のおかげでしょう──? 「これからも颯斗を宜しくね!ハヤト君」 「!ああ、任せとけ」 あたしが差し出した手をギュッと握り返してくれたハヤト君に笑顔を向ければ、向こうからも穏やかな笑顔が返ってくる。 救えなかったわけじゃない──、 そう思ってもいいのかな──? ねえ、颯斗───……。 .... (愛!) (あ、骸さん…) (邪魔者は退散するか) ((!)) |