結局あの晩は骸さんと暫く一緒に過ごして、部屋まで送ってもらった。それから眠れたかと言えば答えはNOだ。 何で好きだって言ったのかは分かんない。自分でも気づかないうちにそう言っていたから。 何かね、今伝えておかなきゃもう伝えられないって、そんな気がしたから…。 日が昇り、辺りが明るくなってきて何だか怠い身体を起こしたところで、アラーム音とは違う携帯の音楽が鳴り響いた。勿論あたしの…。 「あ、颯斗──?」 ディスプレイに表示された名前に急用なのかと思い、慌てて電話にでる。 「もしもし…?」 (おう。珍しく早起きだな) 「ん、……寝てないから」 あたしがそう返せば、向こうが吃驚したのは電話越しにでもよく分かった。それから颯斗がその話に触れないようにして、伝えてくれたのは解薬剤のことと、自分のこと。 (……それで、俺さ、お前に面と向かって言わなきゃなんない事があるから…) 「どこ、行けばいいの?」 (!──部屋の直ぐ外にいる) 「分かった」 颯斗が言うんだ。きっと電話じゃいえない大事な話なんだろう。どうせ部屋にいたって眠れるわけじゃないんだから、彼の用に付き合うのも悪くないよね。 あたしは、電話を切ると上着を着てからそっと部屋を後にした。 *** 「骸君、気持ち返してあげなかったみたいだね」 「貴方でもそうするんじゃないですか?」 愛と別れてからも眠る気にはなれず、窓際のソファーに腰掛けていた僕の所に、二人分の珈琲を淹れて隣に腰掛けた白蘭からカップを受け取ると、問いには答えず遠回しに問い返した。 君にならわかるはずだ。愛を支える連中が彼女の周りに溢れてきた今、僕らが愛といる理由はなくなる。だから、別れが待つだけの関係に無闇な感情を持ち込むことは出来ない。 「カッコつけちゃって……、ま、分からなくはないけどね」 「……」 そう言って遠くを儚げに見つめる白蘭に、あの時の愛が重なって嫌でも頭の中に駆けめぐる。 「だけど、後悔なんてしていいこてなんかないよ」 「!───、何が言いたいんですか」 スッと僕に向けられた彼の視線に心臓が大きく跳ねたのは、白蘭の言う¨後悔¨の意を理解しているから。だが、気持ちを伝えていたとして、愛を一人残していかなければならないことを悔いるのは目に見えているじゃないですか。 君が言う¨後悔¨はどちらに向けられた後悔だと言うんですか?どちらを選択しても、結局は後悔しなければならないなら、傷が浅い方がいいに決まっている。 「愛チャンの幸せを考えるのは第一だね、当然だけど。でもさ、骸君大事なこと分かってないんだよ、」 大事なこと、だと──? 「…愛チャンが今一番に欲してるものも分からないようじゃ、…君にそれを語る資格はないんじゃない?」 「───」 愛が今一番に欲しているもの?元の生活を取り戻す以外の何だと言うんですか。 「本当、頭堅いなー、骸君。……愛チャンて素直に物言う子だったっけ?」 「!──、……」 眉間に皺を寄せていた僕に盛大な溜息をついた白蘭は、遠回しに、それでいて核心を突くような指摘をしてきた。僕としたことが少しばかり動揺していたみたいですね。 「一番傷つくのは自分だけでいい、……それは愛チャンの立場であって君じゃないよね、骸君」 立ち上がった白蘭が背を向けたまま最後に残した言葉に胸が締め付けられた。愛が今一番に欲しているのは、僕の支え──。 綱吉でも、白蘭でもなく、僕を選んでくれた。それに少し、優越感を感じていたのかもしれませんね。 「礼は言いません」 「はは、期待してないよ」 それだけ言い残して僕は部屋を飛びだして愛の所へと向かった。その後ろで白蘭が僕に向けた言葉を聞き入れながら。 .... (骸、やっと動いたんだ…) (全く、世話が焼けるよねあの二人) (!──、そうだね) (本当に辛いのは背中を押す) (白蘭だよ……、骸) |