部屋の外で見守っていた俺は、泣きつく愛の姿を前にもっと早く会わせてやればよかったと後悔した。 「サプライズだねー」 「白蘭…」 そんな俺の横にいきなり現れたのは白蘭を含めたお馴染みの三人。三人とも愛が父親と再会できたことにホッとしているようだった。 「それにしても、紫苑がいるこの場に連れてくるとは…また危険なことを」 「そうでもねーぜ?愛の監視は颯斗が一任されてっからな。余裕で侵入させられた」 そう、俺には願ってもみなかった事。颯斗が人格のバランスを取り、俺たちに協力してくれてるから、一成さんをここに連れてくることが出来たんだ。 「じゃあ紫苑さん気づいてないって事?」 「多分な…」 確かな確証はねーけどまず間違いねぇはずだし。見つかってたら直ぐにでも消しにくるだろうしな。 「夕吏、それから…君たち三人も中に入ってくれないか?大事な話がある」 そんな俺たちに、愛を抱きしめたままそう呼びかけた一成さん。俺は言われたとおりに部屋へと足を踏み入れた。三人も俺に続くように中に入り、扉は静かに閉められた。 *** 「まず最初に……」 ギューッ 話し始めようとした一成さんにしがみついたまま未だ離れようとしない愛。何かよ、言っちゃ悪いけど離してやんねーと喋れねえんじゃねーの? 「愛、お前高校生になってもまだその甘え癖は抜けんのか」 「違うもんっ」 違うもんだってよ。普段の…否、今までの愛を見てきた俺たちからしたかなり奇妙な光景に見えるよな。つーか不自然? 「なら離しなさい。話が出来ないじゃないか」 「話なんていいからっ、どうして生きてるの?生きてたなら何で直ぐに無事を知らせに来てくれなかったの?…あたし、死んだって聞かされてたんだよ?!」 それを今から話すんじゃねーの?まあ本題はそっちじゃねえんだけど。一成さんもいろいろあったんだしよ…。 「今から全部話すから、離れてしっかり聞きなさい。時間がないのは分かっているだろう」 「!──、はい」 やっと納得したのか離れてきちんと座り直した愛に、少しホッとしたような顔をした一成さん。 「まず始めに君たちには礼を言っておきたい。…娘を守って支えてくれたこと本当に感謝している」 一成さんが頭を下げたのは、俺の横にいた三人にだった。俺は昨日、散々謝罪と礼言われてっしな。 「い、いえっ。俺たちはそんなっ」 「礼を言われる義理はありませんよ」 「愛チャンの傍にいたのは自分の意志だしね」 「皆……」 好き勝手バラバラに発言した三人だけど、あたしに向けてくれてるのは優しい笑顔だった。それに何より嬉しかったのは、三人がちゃんとあたしのあげたプレゼントを身につけてくれてるって事で──。 「!──」 そんなあたしの考えはもろ顔に出ていたのか、隣にいたパパが少し吃驚したような顔をしていたのが視界の隅に入った。 「愛はいい人たちに出逢ったね」 「うんっ」 くしゃりと撫でられる感覚はあたしを落ち着かせてくれて、幸せな気持ちを運んできてくれる。 「それで話というのは紫苑のことですか?」 そんなあたし達の空気を破ったのは、いつもより真剣な声色をしている骸さんの一言だった。 「ああ、そうだったね。…私が生きているのは紫苑のおかげなんだよ」 「え、──?」 父のその言葉は、場の空気を一気に凍らせてしまった。あたしには父が何を言っているのか理解できなかったの。 「紫苑は医師にも認められている解離性同一性障害者の一人なんだよ」 「何、それ──?」 「聞いたことあるわ。……それ、」 父の言葉に今まで黙って話を聞いていた美和が声を上げた。美和の家は財閥なだけあって、両親とも有名な医者だ。両親と同じ地位を目指している美和の知識は人並み以上。知っててもおかしくなんかない。 だけど今のあたしは、父を殺そうとしたアイツが父を助けたという事実で頭が混乱状態に陥っている為、上手く頭が回らない。 「解離性同一性障害はな、簡単に言えば自分の他に別の誰かが存在している人の事を言うんだよ」 「!──それって…」 「本物の二重人格者だったって事ですか」 「そうなる。…解離性同一性障害は大半が幼児期に虐待や、性的虐待を受けた人間が多くなると言われている─。…夕吏、お前は知っていたんじゃないのか?」 骸さんの問いに頷いたパパの視線は、何故か俯いて、動揺した様子もない黙ったままの九条君に向けられた。心なしかその瞳は怒りを含んでいるようにも見える。 「九条君──?」 何だか様子のおかしい九条君をのぞき込めば、その瞳からは涙がこぼれ落ちていた。 .... (夢の中のあたしが言っていた事) (何となく、分かってきた気がする) |