「愛っ」 「!……美和、」 あたしが振り返った先にいたのは、走ってきたのか息を切らして心配そうに顔を歪めてる美和の姿。 何でかは分からないけど、駆けつけてくれたのが美和でよかった、そう思う自分と、やっぱり三人は来てくれないんだとどこかで思ってしまってる二人の自分がいる事に気づいた。 「なに、泣いてんのよ」 「あ、な…泣いてないもん」 そんなあたしの隣に来て、涙を拭ってくれた美和にあたしの意地っ張りな性格が出てきてしまう。…美和には分かっちゃうって頭で分かってるはずなのに、な。 「颯斗君と、話してたんだってね」 「!──、うん」 「スッキリした?」 「話す前よりは、ね」 スッキリしたと聞かれて違うと言えば嘘になる。だけど、完全に心の闇が消えたわけじゃないから、曖昧にしか返せない。 それに、今、あたしが直面してる問題は別のところにあるみたいだから。 そんなこと考えてる場合じゃないはずなのに、どうしても考えてしまうそれは、あたしの思考回路を滅茶苦茶にする。 「美和って、和磨をどうして好きになったの──?」 だからあたしはその問題から解決しなきゃならない。…じゃなきゃ、前に進めない気がするの。 「いきなりどうしたのよ…」 「…ちょっと、」 あたしの唐突な問いかけに目を見開いた美和は、あたしが口ごもったのを見ると直ぐに、そっと肩を抱き寄せてくれた。 「好きな人、出来たんだ……」 「──、うん」 美和の問いかけに自然と頷いている自分に、あたし自身が一番驚いてる。 颯斗に言われて初めて気づいた自分の気持ち。それが本当の愛なのか、今のあたしにはそれが事実だと言える術がないの。 「…温かいでしょう?」 「え──?」 温かい───? それは何に対して感じてるの? 「私ね、和磨を好きって思うと心が温かくなるの」 そう言って笑う美和は本当に幸せそうで、何の迷いもなく和磨を愛してると、その表情が物語っていた。 「だけど、恋って誰も傷つけずに出来るようないいモノでもないわよね」 「───」 それは颯斗にも言われたこと。だけど、あたしには理解できない。誰かを傷つけてまで、その人との恋を成就させることに何の意味があるのか、それが分からないから。 「愛は、誰か一人でも傷つくのがイヤなのよね」 「…うん」 そんなのあたしに限った事じゃないと思う。人を傷つけるのは誰だってしたくないことでしょう? 「だったら、自分の今気づいた気持ちを抑えて、誰も幸せになれない道を選ぶ?」 「…それは……」 でも、あたしだけ幸せになるなんて、そんなのおかしいじゃない。…それに、こんなあたしを本当に愛してくれる人がいるのかも分からない。 あたしが好きだと気づいた彼が、あたしを愛してくれるなんて分からない。…ただそうであってほしいと、あたしが望んでるにすぎないから。 「自分の好きな人が幸せになってくれたら、愛はどう思う?」 「そりゃ、嬉し──!」 「そうよね、……だったらそれが答えよ。……愛が幸せなら周りもちゃんと幸せになれるんだから」 だから、自分の気持ちに嘘はついちゃダメ。怯えて前に進まないのもダメ。 美和の続けたその言葉に、あたしの心にかかっていた濃い霧は姿を消した。…つっかえていたモノが取り払われたんだ。 「美和、あたし……」 「頑張って。…きっと上手くいくわ」 「うんっ」 あたしが彼を好きだという事。その事実を隠す必要なんて、増してや抑え込む必要なんてないんだ。 好きなら好きって、素直に言えばいいんだよね。 颯斗と美和が気づかせてくれたあたしの素直な気持ちは、事が終わるまで今暫く自分の胸だけにしまっておこう。 .... (全てに決着が付いたその時に) (絶対に言うから───) |