「余計な事をベラベラと──、アレを宥めるこちらの身にもなっていただきたいものですね」
壁により掛かり、一部始終を聞いていたのか、責めるような言葉を投げかける一人の男に屋上から出てきた男は足を止めて、彼に目を向けた。
「!───、愛って言わなきゃわかんねー奴だろ。……颯斗が望んだからそうしたまでだ」
男、颯斗であって人格の違うもう一方の彼は自分を責める言動をものともせずに、真っ直ぐに彼、骸を見返してそう返した。
「ほう、……ではその颯斗に一つ言伝をお願いします」
「───…」
それに何かの確信を得たらしい骸は、預けていた背を起こし、颯斗の真正面へと立った。
「¨愛は心配いらない¨と」
そして、颯斗が守りたくても守れない女の身は自らが守ると、そう強く約束する誓いを示した。
「!───、頼んだぞ、……骸」
「!…はい」
それを受けた颯斗自身は、恋敵である骸の存在を認め、もういなくなる彼に自分の愛する女を託した。
二人が交わしたこの誓いは、後に大きな結果を残すこととなる。
***
「骸君、逆上してたりしてね」
「その危険がお前にあったから六道に任したんだろーが」
「言うねー、九条君」
「俺が言わなきゃ誰が言う。お前、自覚ねぇんだからよ」
「二人とも、落ち着こうよ」
「「落ち着いてる(よ)」」
骸に霧島さんの事を託して送り出してから、教室前で言い合ってる二人にそこだけ空間が違うかのように、人が避けて通ってる。……うん、俺も二人のこと何も知らないならそうしてた。
「あ、沢田…って、何この状況…」
「ちょ、ちょっといろいろと…」
「お、久々に学校来て喧嘩してんのかお前等は」
そこに幸か不幸か、駆け寄ってきてくれた神童さん達にホッとした俺。二人ならこの二人を止められるかもって思ったからかもしれない。
「誰も喧嘩してねーし」
「そうそう、九条君が一方的にいちゃもんつけてくるだけだよ」
「!、売られた喧嘩は買うぞこらっ!」
「その言葉そっくりそのまま返すよ」
また始まった……これのどこが喧嘩じゃないって言うんだよ。骸、早く愛と帰ってきて(涙)
「ところで肝心のお姫様はどこよ?」
「愛は、今、霧島さんと話してるんだ」
「「え──、」」
この二人に嘘をつくわけにはいかなかったから正直にそう告げれば、二人は声を揃えてそう言葉をこぼした。…心なしか顔もひきつっているように見える。
「大丈夫だよ、…愛チャンに何かあれば彼が黙ってないだろうからね」
「……同感」
どうカバーしようか思案していた俺に助け船を出してくれたのは、意外にも今まで口論を続けていた二人だった。
「でも颯斗君……、今…」
「彼って霧島さんのことだから、──だから大丈夫なんだ」
「え?」
「どういう事だよ…」
二人の説明に加えた俺の言葉の真意が分からなかったらしい二人に疑わしい目で見られたけど、俺は自信を持ってそれが正しいって言い切れたんだ。
だってさ、あの骸が──、白蘭が、愛の信じる霧島さんを信じたんだから。
それに、霧島さんが愛を一番に考えてるのは一番近くで見てきた俺たちがよく知ってる。──、彼に愛を傷つけることは絶対に出来ない。違う、出来るわけないんだよ。
「ああ、いいところに……」
「骸!」
「愛チャンはどうしたの」
そこに、まるでタイミングを見計らったかのように現れた骸に、俺と白蘭がいち早く反応した、んだけど…、話の核だった愛の姿が見あたらない。
「愛は屋上にいるんですが、……ここは僕より、貴方方の方が手慣れているかと思いまして……」
「え?──愛、泣いてるとか?」
「そうみたいです。……話の流れからして僕やそこの三人が宥めに行くわけにはいかないので──」
困った風に苦笑する骸を珍しいな、なんて思いながら見ていた俺が引っかかった言葉は、俺たちじゃダメだって事。──何か、その埋まらない溝が時々イヤになる。多分、俺だけじゃないだろうけど…。
チラッと周りの様子を窺えば、視線をはずして難しい顔をしてる二人が目に入った。…二人も俺と同じ事、思ったんだろうな。きっと、骸も──。
「分かった、私が行く。和磨はここにいて」
「ああ、」
俺があーだこーだ悩んでるうちに、神童さんが屋上の方に駆けていった。
「骸君、簡潔に話してね」
神童さんが見えなくなってから口を開いた白蘭は、少し苛々しているのか、突き刺すような言い方をしてる。けど骸は気にした風もなく大方の事情をまとめて話してくれた。
「──、というわけです」
「……」
スキー合宿か。俺たちが愛にしてあげられることって、ただ力貸して守ってあげることだけなのかな…。
「なあ、明日クリスマスじゃんか」
骸が話し終わって、静まりかえったそのタイミングに何の前触れもなく、その場に似つかわしくない明るい声が響いた。
「?」
「それが何か?」
あ、そっか──。
俺は梧桐(あおぎり)(←和磨)さんの言葉に、つっかえていた何かが取っ払われて、俺たちに出来る最初で最後の恩返しを思いついた。
「愛に、何かプレゼントしようよ」
「「?!───」」
....
(俺たちがいなくなる代わりに)
(確かに愛の傍に)
(存在していたっていう証を──) |