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08:(前に進むこと)

「早く行く?」

「何か用でもあんのか?」

「一人じゃ危ないよ」

「何かあったんですか?」


颯斗と連絡が取れてから、あたしは睡眠をとれないまま朝日を拝むことになった。おかげで頭は妙に冴えていて、皆の前でも嘘を隠し通せる気がしてた。


あたしが今日は一人で早くに家をでると告げれば、心配そうな疑わしい眼差しを向けてくる四人に、そんな風なことを思う。


「平気だよ、今日は美和の家に寄ってから行くから、だから男はダメなんだって」


「何だそら…」


「神童さんなら大丈夫だろうけど…」


「愛、見え透いた嘘をつくのは止めなさい」


うまくいった、そう思ったのも束の間、骸さんによってその¨嘘¨は簡単に見破られてしまった。


「───、」


「愛チャン、ダメだよ」


2人にはきっと分かってるんだろう。あたしがこれから誰と会って、何をしようとしているのか───。


「愛……」


真剣にあたしを止めようとする2人に対し、九条君はただ黙ってその場の流れを見守ってるみたい。──ツナは相変わらず不安そうな顔してるけど。


「あたしには時間がないの…、三人とのお別れの準備も、アイツとの決着も……ただ時間に任せてるわけにはいかない」


「「「!──」」」


「いつまでも平和ボケなんてしてられないんだよ、……先手はこっちがうたなきゃ」


先に動かれたらお終いだ。あたしの言ったことに吃驚しているのか一瞬、目を見開いた三人は、次の言葉でスッと目を背けた。…それが、あたしと同じで別れが辛いと感じてくれての態度なら凄く嬉しい…。そんなこと思っちゃいけないけどね…。


「颯斗にアレが効くかはわかんねーぞ」


「……」

「!─」


指摘されると分かっていたあたしは動じなかったけど、ツナはかなり吃驚したみたい。軽く視線を絡ませて、大丈夫だよと目で合図する。きっと、ツナが薬に蝕まれてるのはここにいる皆が知ってるんだろうと思う。


「分かってる。けど、一時的になら治まるかもしれない」


「人格が二つ出来ちまったら手遅れだ。どっちかがひかねー限りはな」


「手遅れかどうかは颯斗が決めればいい。あたしは、二つの人格の彼を信じる」


颯斗が2人いるんじゃない。颯斗の中で同化していた心が拒絶して離れちゃってるんだ…。あたしはその心が再び同化するように手助けするだけ。


「甘い考えは捨てて下さい、愛」


「骸、さん──?」


「彼はもう君の知ってる幼馴染みじゃないって、まだ分からないの?」


ビクッ──────
あたしが一番触れられたくなかった点を指摘された。2人の言葉は気遣ってくれてるようで鋭いモノ。はっきり言って怖かった。


でも、あたしは引けないよ───。


「──分かりません」


「「!──」」


「あたし、バカだからっ……こうやって皆に迷惑かけて、心配してもらっても…っ」


泣いたらダメ、ちゃんとしなきゃって思っても泣き虫なあたしの頬には涙が伝っていく。


「愛、俺は信じるよ」


「え──?」


言葉にならない言葉を紡いでいたあたしをもう分かったから、とでも言うようにツナがいつもの様に笑って、そう言ってくれた。


「「綱吉(君)!」」


「あの薬、ちゃんと効いただろ。俺で実証済みじゃん」


何を言ってるのか、と隣から声を荒げた骸さんと白蘭さんをものともしないで、周りが気づいていたとしても隠していた¨薬¨のことを自ら明かしたツナに、あたしの涙は止まる。


「ま、沢田の場合で調合したヤツだし?」


「く、九条さん…(そんな最も的な突っ込みいらないって」


「颯斗は逃げてんだよ、自分自身から顔背けて……、助けられんのはお前だけじゃねーの?愛」


「!───、あたし、」


そうだ、颯斗とはずっと一緒で──、いつも助けてもらってた。あたしが、あたしが彼を助けなきゃダメなんだよ。


だから今日は話に行くんじゃん。危ないとか、信じる信じないじゃない。前に進まなきゃ何も解決しない。


「骸さん、白蘭さん」


「「───」」


「あたしを信じて」


「「!──」」


2人があたしを守ろうって、心配してくれてるのは凄く分かる。あたし、一人じゃ何も出来ない上に甘えん坊だから。この数ヶ月、いっぱい迷惑かけてきたと思う。


「明日、クリスマスだもん。そんな大イベント前に怪我なんてしないから!お菓子、作れなくなっちゃうしっ」


「!─クフフ、ハハ」


「ははっ、流石愛チャン」


「え、え?」


あたし結構真面目に話したつもりだったんだけど;2人から上がったのは大きな笑い声。食卓に着いていたツナと九条君まで笑ってる。なんでー!


「愛、」

「愛チャン、」


「はい?」


チュ────


「へ──?」


あたしの両頬に触れた温かくて柔らかい感触に、吃驚して目を見張る。目の前ではそんなあたしを見て、クスッと小さく悪戯な笑みを漏らす2人がいて。


「なっ、な──!」


「あ、7時回ったねー」


「確かバスの時刻は──」


「!うっ、もうっ……ありがとー!」


「「?!──」」


あたしは2人の急かす言葉に鞄を引っ付かんで走って家を飛び出した。




....
(あ、愛薬忘れてるし…)
(何処か抜けてるよねー、あの子)
(まあ、学校に着くまで気づかないでしょうが)
(はは、言えてんなそれ)


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あきゅろす。
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