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16.青学の勝利の女神。

青学は、棄権した銀華のおかげで進んだ決勝でついに山吹とぶつかった。


「よお小僧、あの女はどうした?」


「…アンタのせいで入院してるよ」


「亜久津先輩!なにしたですか!」


試合が始まって、コートの外で交わされる二人の会話。そこに慌てて入ってきたのは、山吹でマネージャーを務めている壇太一だった。


「自分の女がそんな事になって殴り込み一つナシとはホント小せぇ男だな」


「…何か勘違いしてるんじゃない?」


「ああ?」


帽子を深くかぶって深みのある笑いを浮かべる越前に対し、亜久津は眉間に皺をよせた。


「俺がアンタに仕返しするのはコートだから」


「…ハンッ、優等生ぶりやがって」


「冗談止めてくんない?…美咲に手あげたんだから、死ぬ覚悟でかかってこいよ」


ギロッと睨みつける越前の瞳は亜久津をとらえて離さない。いつもより威圧感のあるその声と言葉は、美咲を傷つけた罪の重さを突きつけているようで。


「!言ってくれるじゃねーか」


「ま、無様に負けない様に頑張れば?」


帽子をかぶりなおした越前は、そのままコートから離れ、自販機へと向かった。勿論ファンタを買うために。


「亜久津先輩…」


「俺にテニスで勝とうなんざ、百年早ぇんだよ」




***

だが、越前の気合いに反して最初から負けを背負ってしまった青学は出だし不調と見える。


「何か美咲がいないと調子でないな…」


「不二、負け惜しみ言うなって…」


「ちょっと違うんだけどな…」


不二の言葉に苦笑する河村にまた不二も苦笑を返す。二人の実力を持ってしても山吹のダブルスには通用しなかったというわけだ。


「英二、勝って青学ペースに持ってくぞ!」


「もっちろん!」


そして、ダブルス1で青学一のゴールデンペアーこと大石秀一郎と菊丸英二が次なる試合に踏み込んだ。


「不二先輩、ありがとうッス」


「嫌みかな?それは(笑顔」


「…先輩のおかげで俺まで順番が回るんで、その礼ッスよ」


「嫌みだね」


「……(ま、少しだけ」


口には出さず、心で思う越前に不二は気づくわけでもなく、また一年に調子づかせたことに一つ溜息をついた。


「このペアーは去年もいたね」


「ああ、大石が先輩と挑んでボロ負けした相手だ」


不二の考え込む様子に頷いてノートを開く乾。その乾の言葉に、不安が募る試合となったのは言うまでもない。


「あの二人はもう負けないッスよ…」


「お前が言うことじゃねぇっつの!」


「痛いッス…」


ぐりぐりと越前の頭を撫でる桃城にムスッとする越前だが、その二人のやりとりで、不安が募っていた試合と応援組は大きな安堵感に包まれた。


「んじゃ、俺もアップしとくかな」


「桃先輩が負けても次は俺ッスから安心して試合して下さい」


「越前、俺を誰だと思ってんだよ」


「?」


「俺は相手が強けりゃ強い程燃えるんだ!そこだけはお前といい勝負だな」


「俺のが勝ってるッス」


負けず嫌いな越前の言葉に桃城は苦笑してジャージを脱ぎ捨てた。瞬間響いた審判の声は、青学の勝利を告げるものだった。


「やった!」


「菊丸先輩!大石先輩!おめでとうございます!」


コートから出てきた二人に駆け寄る部員に笑顔を返す二人。そんな中、勝敗へ大きく関わる大事な第3試合が幕を上げる。


──桃城VS千石


山吹の強豪であり、ラッキー千石と呼ばれる彼はとても運のいいプレイヤーとも言われていた。


学年も一つ上であるからして、テニスで積み上げてきた経験値も彼の方が勝るだろう。だが、運命の女神はどうやら桃城に微笑んだようだ。


「桃先輩、勝つッスね」


「ああ」


誰に言うでもなくそう呟いた越前に部長である手塚が大きく頷いた。


そしてその越前の言葉通り、足を痙攣させながらも勝利を掴み取った桃城は握った拳を空高く掲げて、ここにはいない青学の勝利の女神にそっと囁く。


「美咲、後はお前の旦那が決着つけてくれるからよ」


「桃城!」


その言葉はきっと彼女にも、次に試合を控えている越前にも届いたに違いない。桃城は、慌ててコートに駆け込んできた部員に笑顔を返し、肩を借りてその場を後にする。


「桃先輩」


「え、ちぜん」


「後は俺に任せといて下さい」


「!…おう」


桃城は、コートから出る際にすれ違った越前の頭を帽子の上から撫でると、都大会優勝を青学きっての一年生意気ルーキーに託した。


越前はそれをきちんと受け止め、目の前に現れた自分の大切な人を傷つけた男に勝負を挑む。


──もちろん、勝ちに行くのだ。


帽子をクイッと上げて、晴天の中、コートへと踏み込む。掴むは勝利のみ、都大会優勝をかけた勝負が今、始まる──。


「俺、負ける気ないから」


「その言葉そっくりそのまま返してやる」


試すような目で見下ろす亜久津に、越前はラケットを突き出すと余裕の笑みを浮かべる。


「美咲がさ、コートでぶっ倒してこいって」


「度胸がある女は嫌いじゃねぇよ」


「…美咲はやらないけど」


「そういう事は俺に勝ってからにしろよ、ああ?」


ま、勝てるもんならなと付け足した亜久津を越前は鼻で笑い飛ばし、ラケットを肩にかける。


「勝つよ、美咲は離れてても青学の…、俺の勝利の女神だから」


「ハンッ言ってろ」


二人が構えたのを見計らって審判が試合開始のコールをする。




....
(俺には美咲がついてる)
(勝ったらすぐ会いに行くから、)
(待っててよね──)


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あきゅろす。
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