「都大会準決勝かー…」 病室の屋上まで来たあたしは、そこから見える景色がテニスコートならな、とバカなことを考えていた。 あーあ、あたしも見に行きたいー!!あの亜久津とかゆー人とんでもないことしてくれたよ…。けど、悪かったって言ってたのは気になるんだなー…。その後投げられたけど← あたしの胸の内にモヤモヤとある感情に反して、空はこれでもかってくらいに真っ青で快晴。 「あんまり身を乗り出してると、危ないよ」 「え?」 急にした声に振り返ると、一人の男の子が心配そうにこちらに近づいてくるのが見えた。 綺麗な人───…、 ついみとれてしまうほどの端整な顔立ちのその人に心を奪われて、フェンスから手を離してしまった。 「わっ!」 「!」 コンクリートと衝突しちゃうよ!と思って目を閉じたあたしだったけど、来るはずの衝撃はこなくて、 「大丈夫かい?」 「えっあ、ごめんなさいっ」 目を開けた瞬間に目の前に飛び込んできたのは、誰かの腕の中。どうやらさっきの人が助けてくれたみたいだ。あたし何てご迷惑を! 「フフ、そんなに畏まらなくていいよ」 「幸村!何を無茶しとるか!」 「部長、病人なんですから無茶は止めて下さいよ」 「売氛泪 屋上の出入り口から聞こえてきた怒声にビクッと跳ねる心臓。し、心臓に悪いな…、てか、誰なんだろこの人達。皆、同じ制服だ…。 「大丈夫、俺の部活仲間だから」 あたしの心情を察したのか、頭を撫でてそう言ってくれた男の子にホッと一息つく。悪い人たちじゃなさそうだし、一安心。 「何スかその女…あ、」 「これはこれは、青学の姫さんじゃないか」 銀髪の男の子があたしを見るなり笑ってそう口にする。何で青学って──…、しかもあたしこの人たちと初対面だよ、ね? あたしが首を傾げながらその人を見上げていると、ぞろぞろと屋上に入ってくる同じ制服の人達。 「仁王、彼女と知り合いなのかい?」 「いーや、会ったんは初めてやのう」 「んじゃ何で知ってるんだよぃ…」 「柳に聞いた。お前さん、跡部にもえらい気に入られとるんじゃろ?」 屈んであたしを見つめる彼に疑問符が頭に浮かぶ。ん?跡部さん?あたしあの人にからかわれてるだけなんだけど…、よく分かんないし、俺様だし。 「別に…、跡部さんてよくわからないですし…」 あたしは素直にそう答えると、助けてくれた男の子から体を離し立ち上がる。まだ軽く痛む傷が疼き出したかもしれないな。悪化させたら入院長引いちゃうし、そろそろ病室戻らなきゃ。 「ごめんなさい、えっと…」 「幸村、幸村精市だよ」 「あたしは香山美咲です。助けてくれて、ありがとうございました!幸村さんっ」 あたしが笑顔を向けて彼にお礼を言うと、シーンとなる屋上。えっ、なにこの空気──、あたし何か変なこといったのかな? その空気に戸惑って立ち去れないあたしに、彼らは急に笑い出した。 「えっ、え…」 「君、可愛い反応するね」 「百面相しちゃってよ、あははっ!」 「コロコロ表情変わるのは見てて飽きないぜよ」 「赤也笑いすぎだろ」 口々にそう言う人達の言葉が理解不能なあたしは、困惑した表情で彼らを見つめる。何か個性的な人たちだなーって思ったり。 「ほら皆さん、女性を困らせてはいけませんよ」 「ああ、すまなかったね。美咲ちゃん?また機会があったら会おうね」 クシャッと撫でられた頭を押さえていると、ふんわり微笑んで去っていく幸村さん達。痛かったはずの頭の痛みが少し和らいだ気がした。 何か、例えるなら天使みたいな人─。 そんなあたしに帰り際、最初に怒声を放った男の子が足を止めて振り返った。わっ何か威圧感がある人…。 「さっきは驚かせて悪かったな…」 「えっ…」 「弦一郎、行くぞ」 「あ、ああ今行く」 去っていく彼に何か言わなきゃと口を開こうとすると、彼を呼んだ男の子が振り返って笑顔を向けてくれた。 「俺たちのことは貞治にでも聞くといい。──それから、青学はいい成績を残して関東へ進んだみたいだぞ」 貞治って、乾先輩? この人乾先輩の知り合いなのかな? ていうか青学がいい成績残したって!やったじゃん!! 「あの、わざわざありがとうございます!」 小さくなっていく彼らの背中に精一杯の声でそう叫ぶと頭を下げた。 この出逢いがこの後、あたしの運命を大きく左右することになるなんてこのときは思いもよらなかった──。 .... (真田が謝るなんて珍しいじゃないか) (いや、深い意味はないが──、) (何かあの子、守りたくなる様な感じの子ッスよね) (あれじゃろ?赤也、惚れたってい─) (違いますって//!) (とか言いながら真っ赤じゃんお前) (赤也にも恋の季節がきたんだね) (幸村部長まで何言ってンスか!) |