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｢ねーねー、いくらなんでも遅くにゃい？｣ ｢まだ戻らないのか？｣ 美咲が荒井先輩とボールを取りに行ってからかなり時間が経過してるのに、未だに戻ってこない二人に、俺は妙な胸騒ぎがして、コートの外をずっと見つめていた。 ｢た、大変ですよ！！｣ ｢どうした？｣ その時、コートに勢いよく飛び込んできた加藤が今にも泣き出しそうな声で叫んだ。それが俺の不安を確かなものに変えていく。 ｢荒井先輩と美咲ちゃんが！｣ ｢？！｣ 加藤の口から出た¨美咲¨という言葉にハッとして、急いで加藤に近寄った俺と部長にコート内が一斉に静まった。 ｢何があった？｣ ｢それ、何処｣ 部長と俺が口を開いたのはほぼ同時で、加藤は泣きながら部室の方を指さした。やっぱ俺もついてけばよかった。 ｢｢越前！｣｣ 先輩達の制止の声も聞かずに、コートを飛び出した俺は、胸の内に増す、嫌な感じを振り払うようにその場所に急いだ。 ＊＊＊ ｢…強気な女は嫌いじゃねぇが、今は少し寝てろ｣ ｢あっ…っ｣ ドサッ───── 俺がその場に駆けつけた時に広がっていた光景は、想像していた事態より酷くて────…、 言葉が出てこなかった──。 美咲──…。 ｢やっとお出ましかよ、……この女、青学のマネにしとくのは勿体ねぇな」 倒れてる美咲を指さして鼻で笑い飛ばす其奴に、怒りが頂点に達した。勿体ないとかアンタに言われる筋合いないから。 俺が駆けつけた瞬間、倒れた美咲の頬には涙が伝っていて、今朝まであんなに笑っていたアイツの姿はもうどこにもない。 俺がポニーテール好きなの知って髪を上げてきてくれたのに、ゴムは切れて、長い髪が地面に広がって──…、 ｢アンタさ、殺られる覚悟できてるよね？｣ ｢ああ？｣ ｢俺の女に手出したんだから当然だけど｣ ｢ハンッ、自分の女も守れねぇなんざ、男として終わってんぞガキ｣ 自分でも驚くくらいいつもより数倍低くなった声に、今にも殴りかかりそうになる気分を何とか抑える。 だってさ、美咲がここまで我慢したのって…、都大会前に殊を大きく荒立てたくなかったからじゃん。 なら、俺がここで手をあげるわけにはいかないっしょ。美咲の気持ちを無碍になんてしたくないから。 ｢何だよ、仕返しも出来ねぇほど肝っ玉ちっちぇのか｣ ｢っ！｣ ｢美咲！｣ そう言って倒れていた美咲を引っ張り上げて、奥に投げ飛ばす其奴に俺は目を見張った。頭おかしいじゃないの？つかもう許せないんだけど。 ｢──っ｣ ｢ほら、次は守って見せろ、よ！｣ ｢！？｣ 其奴は石を拾い上げたかと思ったら、ラケットを取り出して、美咲に向かってサーブの構えをした。 次の展開が容易に想像できた俺は、美咲の所まで走ってラケットで石を弾く。こんなの当たったら痛いじゃすまされない。 ｢そうこなくっちゃな！｣ ｢って…｣ だけど次の瞬間、纏めて飛んできた石を遮れきれず、頬に数カ所擦った痛みが走ったけどこんなの全然痛くない。 ｢越ぜーん！｣ ｢今日のは挨拶代わりだ。俺は山吹三年、亜久津仁。都大会、決勝まで上がってこいや！｣ 先輩達の声が聞こえて直ぐにそれだけ言い残して去っていく亜久津を睨みつけて拳を握りしめた。 ｢！…美咲｣ ｢…結局、け、が…させちゃったっ｣ 握った拳の上から重なる美咲の温かい手に、涙が零れそうになる。何で、何でそこまですんの。俺が美咲を守ってやりたかったのに。 ｢バカッ──｣ ｢ごめ、んっ…｣ 身体の痛みを我慢しながら弱々しく笑う美咲を抱き寄せて、しっかりと抱きしめる。惚れた女一人守れないなんて、俺、彼氏失格じゃん。 美咲は俺の腕の中で緊張が解けたのか、痛みで意識を飛ばして、ぐったりと寄りかかってきた。 ｢越前…これは｣ ｢美咲ちゃんっ！｣ ｢荒井先輩！｣ その後、俺は駆けつけた先輩達に美咲を抱き上げて、救急車を呼ぶように頼んだ。 .... (オチビ、付き添い──) (──、) (俺と竜崎先生が付き添う。今日はもう解散！) |
