「美咲ちゃん、荒井とボール調達してきて!」 「はーい!荒井先輩!」 「ああ、悪いな」 「いえ!」 いよいよ迫ってきた都大会準決勝に、練習の気迫は十分。あたしは荒井先輩と一緒に、ボール調達のため、一度コートを後にして、ボール箱の所まで向かった。 「二箱でしたっけ?」 「ああ、そうだな。気をつけろよ」 「あ、はいっ」 積み上げてある中から一箱持ち上げて荒井先輩に着いてコートに戻るためUターンしたんだけど、どこからか煙草の臭いが漂ってきて───…。 「何か煙草臭いですね…」 「…アイツだな、ちょっと待ってろ」 「荒井先輩!」 何だかとても柄の悪そうな他校の生徒に近づいていく荒井先輩を引き止めようと声をかけたけど、先輩は大丈夫だと近づいていってしまった。 「おいお前!他校の奴が何青学(ウチ)で煙草蒸かしてんだよ」 荒井先輩がその他校の人の肩をグッと引っ張ってそう言うと、相手は凄いのに眉間にしわを寄せて振り返った。怖いっ。 「何お前、誰に指図してんの」 「何だ──?!」 「先輩!!」 振り返った彼は荒井先輩に殴りかかってしまい、あたしは驚きと恐怖でボール箱を手から落としてしまった。それがその場に散らばってあたしの存在も彼に気づかれる。 「うぐっ」 どうしよう───っ 先生呼んでこなきゃ!! そう思っても、目の前にある光景を目にしたらあたしは、荒井先輩を一人残してなんていけなくて、怖かったけど急いで駆け寄った。 「や、止めてくださいっ!」 「バカッ逃げろ──っ!」 逃げろって言ってくれる荒井先輩の声は、震えるあたしの耳には入っていなくて──、 「お前、青学のマネかよ」 「痛っ─!?」 グッと掴まれた腕がギリギリと締め付けられ、あたしの身体は無理矢理そのまま引っ張り上げられた。女とか関係なくこめられる力は強くて扱いは乱暴で──、 「てめっ!そいつを離せっ!」 「うるせぇよ、雑魚が!」 「うっ」 「や、やめてっ!」 また荒井先輩を足蹴にしたその人は、全然反省の色が窺えない。血だらけになる先輩を見てもただ泣き叫ぶしか出来ない自分の無力さに嫌気がさす。 それでもこんなあたしを守ろうとしてくれた荒井先輩があんなに怪我して…。もういいっ。あたしなんか助けなくていいですから…! 「こいつ助けたきゃ、一年の越後夜とかいうルーキー連れてこいや」 「!?」 一年ルーキー?リョーマのことだっ。ダメっ、今都大会準決勝近いって言うのに怪我なんかしたら! あたしは、目の前の彼の目的に掴まれた腕を振り払おうと頑張ってみるが、余計に手を掴まれる痛みが増すばかりで──。 「そんな力で何ができんだよ、ああ?」 「やっ!離してっ!」 ガンッと凄い音がしたと思ったらあたしはその男が寄りかかっていた木に押しつけられた。痛いっ──! 「怪我する前にとっととはけ」 「嫌っ!あたしはっ、…あたしは青学のマネなの!試合間近の皆に怪我させるくらいならあたしが怪我した方がマシだから!」 「!…本気で言ってんのかてめぇ」 本当は怖くてしょうがないけど、ここでリョーマや皆に頼ってちゃマネージャーやってる意味がない。あたしは、逃げるってことだけはしたくない。 だけど今は荒井先輩がさっきの一撃で気を失っているし、あたしはこの男に押さえられて身動きがとれない。 つまり、誰もリョーマに危ないから絶対に出てくるなとも、先生を呼びに行くことも出来ない。 このままじゃ──、 .... (貴方には絶対──、) (怪我なんてさせたくないっ) |