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06.握られた手から伝わる。

「ただいまっ」


「遅かったじゃん…」


「ちょっとトイレ混んでて」


あたしが走って戻れば、コートのフェンスに寄りかかって待っていたらしいリョーマの姿があって、咄嗟に出た嘘にリョーマが気づいてるなんて思いもしなかった。


「ふーん…」


帽子をグッと深くかぶるリョーマにも気づかず、これから始まる試合が気がかりで仕方なかった。裕太君が言ってた話も気になるけど、裕太君の対戦相手はリョーマだから…。あたしはどっちを応援したらいいか分からなくなっていた。


そんな中始まる試合は、ベンチコーチを竜崎先生に頼んで、コートの外で見守ることにした。とてもじゃないけど、今の状況でベンチコーチなんて出来ない。




***

「…嘘へたなんだよ」


さっき、不二先輩の弟と会ってたくせに…。苛々する気持ちを隠せずに、美咲から距離をとった俺だけど、全く気づいてない美咲は難しい顔して試合見てるし。


「越前」


「…不二先輩」


そんな俺の所にやってきた不二先輩に木にもたれ掛かっていた状態を起こす。何となく何言われるか分かったし。


「気になる?あの二人…」


「別に…」


不二先輩が言ってるのは、弟と美咲のことだろうけど、聞かなくても分かるんじゃない?普通…。


「裕太は好きみたいだよ、彼女のこと」


「え」


「やっぱり気になってるみたいだね」


「………」


ハメられた…。てか気にならない訳ないじゃん。あの人、美咲のこと抱きしめてたし…、美咲は訳わかんない顔してたし。


「本当に、兄弟が同じ人好きになることってあるんだね」


「は──?」


「クスッ、英二が前に言ってただろ?美咲ちゃんを好きなのは越前だけじゃないって」


「…あれ俺の彼女なんスけど」


美咲を指しながら、放心状態でそう言えば、からかい笑いのように笑われた。


「まあ、冗談はさておき、裕太には気をつけた方がいいよ」


冗談かよ!焦
不二先輩の冗談て分かり難いんだよ。心の中で突っ込み不二先輩の言葉に耳を傾けた。


「どういう意味ッスか…」


「乾から話は聞いたんじゃないかな?¨左殺しの裕太¨って」


「ああ、あれッスか…」


確かに、俺は左利きだけど、両手利きでもあるし、あんまり関係ないと思う。それにそれって確か、対手塚部長用だった気がするし。


「どうやら僕が知ってる裕太よりはるかに腕を上げたみたいだからね」


「へー…」


「負けたら彼女とられちゃうんじゃない?」


「冗談キツいッスよ…」


相変わらず一切表情を変えない不二先輩に少しムッとしながら帽子をかぶり直す。ほんと、この人が言うと冗談に聞こえないから。


「英二先輩!」


その時、ガシャンッという音と共に聞こえた美咲の叫びに近い声。俺と不二先輩は話を中断して、コートの側にかけよった。




***

「大石お待たへ!充電完了♪」


「英二!」


あたしの叫び声の後、見事打ち返してポイントを取った英二先輩に、ホッと一息つく。どうやら体力を少しでも蓄えるために、大石先輩に時間をかせいでもらってたみたいだ。


「美咲、ありがとね!」


「あ、はい//」


英二先輩は安堵したあたしにくるっと振り返ったかと思えば、笑顔を向けて手を振ってくれた。いつの間にかちゃん付けじゃなくなってるのは気にしないで、その笑顔に笑顔で返す。応援の言葉とともに。


「よっしゃー、行っくぞー大石!反撃開始!」


「ああ!」


「美咲のおかげじゃん」


二人の掛け声に安心していると、横から聞き慣れた大好きな人からの声がかかった。


「リョーマ…」


いつの間にかいなくなっていたリョーマが側にいて吃驚していたら、そっと左手が握られた。そこから伝わるのは彼の何か強い意志。


「…俺ん時、ベンチ入って」


「え?」


「…ちゃんと俺とアイツの試合みて」


リョーマの真剣な言葉にドクンッと跳ねる心臓。アイツ、それが裕太くんだっていうのは直ぐに分かって、あの会いに行った現場も見られていたんだってこの時初めて気がついた。だからリョーマ、ちょっと不機嫌だったんだ。


「!ベンチじゃなくてもちゃんと…」


「ダメ」


何とかして言い逃れようとするけど、掴まれた手が離れなくてリョーマに遮られてしまう言葉。真っ直ぐに向けられる彼の瞳から目が逸らせない。


「……」


「…美咲」


「ごめんっ」


リョーマに謝って、最後までベンチコーチを引き受けないあたしにその場で聞いていた部員も心配そうに見てくる。だけど、あたしは…、どっちを応援したらいいかわからないから。


「俺とアイツの両方応援すればいいじゃん」


帽子をクイッと上に上げて、あたしを見下ろすリョーマにいつもの優しい笑顔が戻っていて──。


「ま、俺は負けないけど」


「……ははっ//、そうだね」


だけどそれは直ぐに自信に満ちたちょっと意地悪な笑顔に変わる。何だ、そうだよ。そうすればいいんじゃん。


あたしはリョーマの提案に頷いて、裕太君とリョーマの試合にベンチコーチとしてコートに入ることになった。


その後、タイブレークまで持ち越された英二先輩と大石先輩のダブルス1は惜しくも敗退してしまった。


その代わり、桃先輩のダンクスマッシュが決まり、海堂先輩と桃先輩のダブルス2は棄権勝ちになった。


勝敗は一勝一敗────


先に勝利への大手をかけるのは、ルドルフか青学か───…。




....
(それは、次の試合──)
(リョーマと裕太君にかかってる)


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あきゅろす。
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