どうしても気になったあたしは、裕太君を捜してルドルフの待機場所まできていた。 「おや、誰かにご用ですか?」 「あっ、えっと」 「ああ、君が噂の青学のマネージャーみたいですね」 あたしのジャージを見て、理解したのか顎に手を添えて考え込む男の子。てゆーかあたし噂になってるの?何で?何て考えながら男の子の顔を見上げると、どこかでみたような感じがして──…。 あれ、この人…、 裕太君と話してた…。 「あの、裕太君のお知り合いでしたよね?」 あたしが首を傾げてそう言うと彼も思いだしたように声を上げた。 「君は確か…、美咲さんでしたか」 「はい!観月さんでしたよね」 「ええ、お久しぶりですね」 何だかお兄ちゃんと久しぶりにあったような感覚で、観月さんの笑顔が嬉しかった。 「ところで裕太君に何かご用ですか?」 「あ、はい!次対戦するみたいで…」 「そうでしたね、ですが、生憎裕太君には先客が来てましたね…」 「先客?」 あたしが首を傾げると、観月さんは一瞬考えるようにしてから相手が不二先輩だと教えてくれた。 「あ…」 「知らなかったみたいですね、不二周助の弟が裕太君だったと…」 「はい、さっき聞いて…」 「兄弟争いは避けられましたが、やはり複雑ですか」 観月さんの言葉に胸が痛くなって、俯いてしまう。だって、本当のことだから。そりゃあ兄弟で同じ学校でテニスするなんて本人たちからしたら嫌なのかもしれないけど、敵対するのも何か嫌だ。 「あれ、美咲?」 懐かしい声に顔を上げると、目を丸くしてあたしに近づいてくる裕太君がいて─。 「!…裕太君」 「ナイスタイミングですね、では僕は失礼します」 「えっ観月さん!」 観月さんは気を使ってかあたしの頭をポンッと撫でるとその場を後にしてくれた。…何だか本当にお兄ちゃんみたいな人だ。 「裕太君…、急にごめんね」 「え狽竅A別に…、何か久しぶりだから吃驚しただけだし…」 あたしが申し訳なさそうに謝ればそう言って、人差し指で頬をかく仕草が何だか懐かしくて笑ってしまう。全然変わってないんだね。 「何だよ」 「ううん、変わってないなって思って…。次、ウチと当たるから会いに来たんだ」 「ああ、美咲青学のマネージャーになったんだってな」 「裕太君も知ってたんだ。あたしそんな噂になるようなことしたかな?」 さっき、観月さんもそんなこと言ってたし…、何かあるんだよね?きっと。 「噂?何だよそれ」 目を見開いては?という表情をする裕太君にあたしも首を傾げる。 「え、だって観月さんが噂のとか言うから…」 「あー、あの人は情報通だから…それに俺、今兄貴から聞いたし」 「あ、そ、そうなんだ」 やだっ動揺してどうするのよ!動揺を隠そうと俯いたら、裕太君から苦笑混じりに零れた一言。 「聞いたんだな」 「あ、うん…」 「別に黙ってた訳じゃないんだ…ただ、美咲にはそういう風に見て欲しく──」 「見ないよ!あたしは…、あたしが知ってるのは裕太君自身だから!」 裕太君の言葉を遮って、あたしの気持ちをちゃんと口にする。だって、あたしがここにきた目的はこれを伝える為なんだから。 「美咲…」 「あたしにテニスを教えてくれたのも、笑いかけたり、元気づけてくれたのも…不二先輩は関係ない!全部裕太君がしてくれたことだか──!?」 「もういい、分かった」 あたしが最後まで言う前に、遮られて、あたしは裕太君の腕の中にいた。抱きしめられ、てる──? 「美咲が分かってくれてんなら、俺はそれでいいから」 「裕太君…」 「会いに来てくれてありがとうな」 そう言って笑ってくれた裕太君は、スッキリしたみたいで曇った笑顔ではなかった。それにあたしも笑い返す。うん、何だかあたしもスッキリしたかも。 「じゃあ、戻るね!」 そう言って手を振ろうと上げた手は、裕太君によって掴まれて──、 「俺が勝ったら聞いて欲しいことがあるんだ」 あたしは裕太君がいつになく真剣な顔してそんなこと言うもんだから、目を逸らすことが出来なかった。 「?…うん」 「じゃあな」 何だかよく分からなかったけど、あたしが頷くと、掴まれていた手首は離されて、裕太君はルドルフの皆の所に戻っていった。 あたしはその後ろ姿を見送ってから急いで青学の皆の所へ戻る。 だけど、この時あたしは、裕太君の気持ちも、陰であたしたちのやり取りを見ていた彼の気持ちも何も分かってなかった──。 .... (あたしって、どこまで) (鈍感なんだろ…) |