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12.典型的な俺様な彼。

あたしは軽く軽食を済ますと、皆に差し入れを持ってストリートテニスコートに向った。


歩きだった為、時間はかかったけど、リョーマの言う時間よりはやっぱり早くついたみたい。


「何よあんたたち!放して」


時間を確認しながら、のんびり階段を上がっていると、悲鳴に近い声がコートの方から聞こえた。


「!?この声──…」


あたしは、聞き覚えのあるその声に足を早めて、階段を駆け上がった。凄く嫌な予感がする。




***

「そっちが約束したんだろ?ここにいる奴ら全員倒したらアンタがデートしてくれるって」


「杏チャン!」


「!美咲っ」


思った通り、さっきの叫び声は杏チャンのモノで、その杏チャンは一人の男の子に腕を掴まれて身動きできないみたい。


「…何だまだいたのか」


「え…;」


そう言うと男の子はあたしの方に近づいてきて、顎に手をかけ持ち上げた。


「痛ッ」


「結構、可愛い顔してんじゃねぇの…」


「や、やだ!」


「美咲!ちょっと!この子にまで手出さないでよ!」


結構間近まで迫った綺麗な彼の顔に、怖くて目を伏せた。そんなあたしを見てか、杏チャンが無理矢理あたしを引っ張り出してくれた。


「大丈夫?」


「うんっ…」


まだ怖くて杏チャンの服の裾を掴んだままいるあたしに、笑いかけてくれる彼女。杏チャンの笑顔は本当に安心する。


「こいつ等がストリートテニスを馬鹿にしたの…あたしそれが許せなくて」


「…杏チャン」


きっと杏チャンのことだから皆を悪く言われた事に頭に血が上って、啖呵を切ってしまったんだと思う。だったら彼女に非はない。


「杏チャンは悪くないよ…」


「でも…、このままだとっ」


そう言って今にも泣きそうになる杏チャンを見ていたら、ふいにさっきのリョーマとの会話が頭を過ぎった。


「あ…!杏チャン大丈夫よ!今からリョーマと桃先輩が来るの!だから…」


「本当に!?」


「うん!」


そうよ、リョーマが来るまで言い逃れれば杏チャンに被害はいかな───、


「おい、勝手に話進めてんじゃねぇよ」


「は、放してー!」


途中であたしの思考回路が絶たれたのには理由があった。後ろにいたはずの男の子があたしの首根っこを掴んだから、だ。


「お前…まるであれだな」


「あれって何ですかーっ」


「ペット」


「勝手に貴方のペットにしないでくださいっ」


「誰も俺のとは言ってねぇだろ…」


面白い奴だな、と言ってあたしを下ろしてくれた彼の方に振り向いて首を傾げる。


「お前名前は?」


「美咲…、香山美咲ですけど…」


「美咲か、気が変わった…今日は負けってことにしといてやるよ」


さっきから気にしてはなかったけど、上から目線の人だなー、ていうかこういうの俺様って言うんだよ。


「勝ち逃げってやつですか…」


「ストレートに言う奴だな」


「あ、ごめんなさい!ち、違いますよ!ありがとうって意味で…っ」


ボソッと呟いたあたしの言葉にピクリと反応して眉を顰める男の子。どーしよ…、怒らしちゃったかな。


「フンッ、まあいい…。美咲、俺様のことちゃんと覚えとけよ?」


「え?あの…」


「氷帝学園三年、跡部景吾」


「あ、跡部さん」


氷帝って言えば、シード校の中でもトップクラスの学校だって聞いたことがある。きっとこの人もレギュラーなんだろうな、って思った。


「ああ、じゃあな」


「んっ」


最後に頭をポンッと撫でられ(?)ただけで、跡部さんはその場から立ち去っていった。


「な、何だったの…一体」


「よく分からない人だったけど、悪い人じゃないんじゃないかな…?」


撫でられた頭に自分の手を乗せて、去っていった方を見つめるあたしと杏チャンは暫くして、顔を見合わせて二人して吹き出した。




....
(氷帝ってチャラチャラしたの多いって聞いたけど、本当だったわね)
(えー、そんな学校嫌だー)


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