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第24夜 別れ事『決めた覚悟』
彼女の涙は見たくない、決めた覚悟を胸に──…















───れ事


















「ふーん、じゃあ一時的なんだね」


「そういう事だ」


眠ってしまった愛を腕に抱きながら全てを聞いた僕は、トンファーをしまい、愛をベッドに寝かせた。失明は一時的なものらしい。それなら時間が経てば元の視力に回復するだろうから、それまでは眠っていたほうがいいかもね。


愛は昔から、暗闇が嫌いだから。何も見えない事ほど怖いことはないだろう。──その原因とも言えるあの人が愛を僕に預けていってから、もう15年になる。早いもんだね。


「愛ちゃんは任せていいんだろ?俺は、少し外すぞ」


「構わないよ」


愛は、一度寝たら暫く起きないだろうけど、こうもしっかり服を掴まれていたんじゃ、僕もここから離れることが出来ない。久し振りに添い寝でもしてあげようかな。


「ふぁーあ、」


そんなことを考えていたからか、途端に襲ってくる睡魔に誘われるまま、愛の横に寝転んだ。直ぐ傍にある懐かしい温もりが心地いいから、僕も少しだけ眠らせてもらう事にするよ。

─愛の傍は、昔から僕の安心できる唯一の居場所だからね。




***

「隼人、傷、大丈夫?」


「はい、何て事ないッスよ…っ」


結局囚われの身となった俺と隼人は今、地下牢に入れられている。ボスになってからこんな経験をしたのは始めて、ってそんなのは今どうでもいいんだけど。


俺の横で、肩を押さえて苦痛に顔を歪めている隼人に、篠宮との交戦で俺を庇った際に負った傷の具合を確かめれば、無理をして笑った隼人は何とも無いと答えた。そんな見え見えの嘘つかなくてもいいのに。


「──ボスの俺に嘘つくんだ」


「あ"、いや、その……はい、ちょっと無理ッス」


「…ぷっ、はは」


「なっ!何で笑ってンスかっ」


何でって、隼人が滅茶苦茶焦って言うからじゃん。昔から変わらない隼人のそんなとこに、俺はいつも救われるんだ。こんな窮地に立たされてるっていうのに、傍に隼人が居てくれるだけで、何とかなるって思える。

─きっと愛もそうだっただよな?


「合流できたんですね、」


「!──誰だ」


「お前あン時の!」


ひとしきり笑った後、笑いながら隼人に謝っていた俺は、地下牢の奥から響いてきた声と足音に、隼人を庇うように前に出た。だけど、目の前に現れたその男と隼人は、どうやら知り合いみたいで。


「知り合い?」


「知り合いっつーか、その…。ここに侵入した時に助けてもらったンスよ」


それで十代目の元に早くたどり着けたんです、と続けた隼人の話からするに、この男が敵じゃないってのは分かるけど、自分のファミリーを裏切ってまで俺たちに味方することに何のメリットがあるんだ?──それにこの雰囲気…。誰かに──。


「──テメェ、いい加減に何者なのか吐けよ」


そう言った隼人にその男は、苦笑してから真面目な顔をして驚くべき事実を口にした。


「私は、そちらでお世話になっている愛の父親です…、といっても、その名を名乗る資格もありませんが」


「「そうか、愛の──!」」


それを聞いてハッとした俺は、同じように声を上げた隼人と顔を見合わせて目を見開いた。──もしかしなくても、隼人も俺と同じ何かをこの男から感じとっていたのかもしれない。


「十代目も、そう思いました…?」


「うん、じゃあやっぱり隼人も?」


「はい。初めて会ったときから何か不思議な感じしてたンスけど、今やっとその謎が解けました」


その謎っていうのは、この男に感じる不思議な感覚のこと。俺も感じたそれは、いつも俺たちの傍にあったものと同じだったんだ。──こんな所で、愛の血縁者と対面するなんて思ってもみなかったけど…。


「疑わないのですか…?」


「いやだって、」


「纏ってる空気が同じなんだよ」


俺たちが疑わずに直ぐ受け入れたことに目を見開いて驚いている愛の父親に、俺が何と説明すればいいか言いよどんでいたら、隼人が納得のいく説明をしてくれた。ていうか、自分の好きな女の父親なんだし、言葉は気をつけたほうがいいんじゃないのかな;


「!──そうですか。あの子と私が…」


隼人の発言に、穏やかな表情を見せた愛の父親は、どこか哀しそうな、寂しそうな感情も入り混じって見えた。──そう言えば、愛が昔、俺に家族はいないって話してくれたっけ。その時の表情があまりにも寂しそうだったから追求しなかったけど。アイツは父親が生きてることを知ってるのかな。


「──どうして愛の父親である貴方がここに?」


そんな疑問から、俺の口を飛び出したのは、何故愛の父親である彼が、娘の傍ではなく、娘に害成すこのファミリーにいたのかを問いつめるものだった。


「──話せば長くなりますが」


一瞬だけ見せた辛そうな表情を無理矢理押し込んだ彼は、俺の問いかけに静かにこうなった経緯を語り始めた。それに、俺と隼人は黙って耳を傾けた。


元々一般人だった愛の父親は、マフィア間の抗争に巻き込まれた際に、技術開発の才能をかわれ、家族を人質に嫌々この世界に足を踏み入れたそうだ。


だけど、元々一般人だった彼はこの裏の世界の非道な行為の数々を見てはいられなかった。いつかは自分たちもああなるのではないかという、恐怖もあったんだろう。


だから覚悟を決めて、家族を連れ、そのマフィアから逃げ出した。だけど、この世界はそんなに甘くない。追っ手は直ぐそこまで迫り、せめて娘だけでも逃がそうと思った彼は、逃げ出すチャンスを作ってくれた自分の後輩に娘を預け、家族ぐるみで仲の良かった雲雀さん宅に愛を託すように頼んだんだそうだ。

だから雲雀さんは、あんなに愛のこと──。


「雲雀が愛を特別に、大事にしてる理由は、そこにあるンスかね…、」


「恭弥くんの事ですか?」


「はい。雲雀さん、今でもずっと愛の事、大事に──」


「彼は、愛の初恋だったそうだから。昔から何かと世話をやいてくれていました」


「なっ!マジかよ」

「雲雀さんが愛の初恋…」


愛の父親から飛び出した爆弾発言に、過剰に反応してしまった俺たちを見て、お父さんは驚いたみたいだけど、直ぐに嬉しそうに笑顔を向けてくれた。


「貴方たちも愛を愛してくれているんですね──」


「「──…」」


その言葉に視線を彷徨わせたのは、俺だけではないようで。俺たちは二人して、縮こまってしまった。何か情けないんだけど。あの雲雀さんが恋敵だったら、今頃俺、あの人に殺されてるよ。愛をあんな目に遭わせたんだから。


そんなことを考えていた俺は、話を戻したお父さんの続きを聞いて、頭が真っ白になった。


「今回のボンゴレ十代目の暗殺に使われた特殊弾は、私が作ったものです」


勿論、篠宮淋の狙いが本当は、愛であることも分かっていた、と続けたお父さんに、俺も隼人も言葉を発することが出来なかった。


「あの特殊弾には、視力を失わせる効果があります。だからきっと、愛の意識が戻ってもあの子の瞳には何も映らないでしょう」


「!──」


「ですがアレには、その効果とは別に、治癒効果と失明を防ぐ特効薬も混入させてあります。だから一時的な失明はあっても、直ぐに回復します」


そう付け加えたお父さんは、悲痛な面持ちで、あの子を助けるにはそれしか手がなかったと、そう悔しそうに唇をかみ締めていた。


その表情から、彼がどれだけ愛のことを想っているのか、強く伝わってきた。きっとそんな手を加えるのは危険な賭けだったはずだ。見つかれば、この人の命はなかったかもしれない。


「単なる言い訳にしか聞こえないかもしれませんが、妻をこのファミリーによって殺されてから私は、娘だけは何としても守らなければと、必死だった。…だから、今日まで──」


「愛はきっと、お父さんを責めないと思いますよ」


「そうッスね。──アイツはそんな女じゃねェ」


「!──」


この話をすれば、必ず責められると思っていた。最低だと、父親失格だと、そう言われると思っていた。だが、若きボンゴレ十代目と、その右腕である獄寺氏は、責めるどころか、私の気持ちを理解して、温かく受け入れてくれた。


愛を慕ってくれているだろう彼らのその言葉に、言葉を失ったのは言うまでも無い。──愛、お前には、こんなにもお前を理解して温かい心を持った人たちが傍に居るのか。


だったらもう、私がお前の傍に戻る必要はない。この人たちと、幸せになってくれればそれでいい。


「娘に、貴方方のような方がついていてくれるなら、私には何の悔いもありません。娘をどうか、宜しくお願いします」


俺と隼人が、これで愛は心配ない、ってそう感じて安堵したその時、何か覚悟を決めたような愛の父親が、意味深な言葉と共に、俺たちが閉じ込められていた地下牢の扉を開けてくれた。


「ここからの脱出路は確保してあります。早くここから出て愛の元に帰ってやってください」


「だったら貴方も一緒に──」


「私はいけません。篠宮淋に協力することで娘には何もしないとの誓約がありますので」


そう言って寂しそうに笑うお父さんは、俺たちに早くここを出るように促した。だけど俺には、あの女がその誓約を守っているようには思えない。


今だから分かることだけど、あの女は、愛に対して尋常ではない嫌がらせを繰り返していたんだ。もう少しで命を落としてしまうかもしれない、命に関わる危険なことも。


それを知っていながら、俺は彼女を利用して愛と隼人の中を引き裂こうとしていたわけだけど。断じて今はそんな卑怯な考え持って無いからな!


「娘を、愛をどうか宜しくお願いします」


俺たちが地下牢から抜け出たそこで、頭を下げたお父さんをここに残していくことは、俺には出来ない。愛のたった一人の血縁者を、こんな危険な場所に残していくなんて──。


「俺が残ります、十代目」


「隼人…」


そんな俺の心中を察してか、肩を貸していた隼人が、俺から離れ、壁に身体を預けて、覚悟を決めたようにそう言った。それがどれだけの覚悟なのかは痛いほどよく分かる。


「許可…出来ない。──隼人は、この人を連れて愛の元に帰って」


「──…」


隼人を死なせるわけにはいかない。こんな重傷を負ってるのに、ここに一人残していくなんて事、出来るわけ無い。だから俺が残る。そう言えば、隼人は何も言わずに真っ直ぐ俺を見返してきた。


「何を言っているんだ!貴方たちは早くここから──」


「愛にはまだ、お前が必要だ。ずっと傍にいたんだ、それくらい分かる」


「!──」


俺たちの会話に、割って入ってきたお父さんの言葉は、隼人によって遮られて、俺の心の代弁してくれた。隼人もそれが分かってるから、この人を愛に会わせてあげようとしてるんだろう。実のお母さんを知らぬ間に亡くしていた隼人だから、その気持ちはとても強いと思う。


だからこそ、俺は隼人をここに残していく訳にはいかにない。愛の涙はもう、見たくないんだ。


「十代目、」


俺が口を開こうとした刹那、俺を呼んだ隼人がスッと肘を曲げた状態で右腕を上げて、俺の前に差し出してきた。それが意味する事を理解出来ないわけじゃないけど、その腕に自分の腕を出すことは出来なかった。

だって、そうしたら隼人は──。


「十代目、」


「っ──」


もう一度俺を呼んだ隼人は、自分で決めたことを今更曲げるつもりはないと言っている様で、俺はその覚悟に応える為に、同じようにして出した右腕を隼人のそれにぶつけた。ハイタッチと同じ、気持ちの了解を表すときに、俺と隼人がとる行為。


「頼みます」


「──必ず戻る」


その腕を解く直前、擦れ違い様に交わした短い言葉を胸に、愛の父親の手を取り、脱出路をただひたすら走って、愛の元に向かった。

─隼人は必ず、助けに戻るから。


「愛──、」


もう暫く会えねーけど、
必ず帰るから──、

だから、我儘言って──、
十代目を困らせんじゃねーぞ。




....
(!──(隼人…?)
(目が覚めたのかい?)
(恭、也…?)
(視力、戻ってきたみたいだね)
(え…?)




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