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第22夜 失い事『不安定な君』
目覚めの代価は君の光を奪い、その頬には涙一筋──…















───い事


















「おい隼人、いい加減、起きろ」


「…、ンだよ」


誰かに名前を呼ばれて頭を叩かれた事で、強制的に眠りから覚まされた俺は、重たい瞼を上げて、まだぼんやりしている視界の中、頭を叩いたであろう男を見上げた。──ンだよ、シャマルかよ。


「愛ちゃんから手離せ。容態が確認出来ねーんだよ」


「!──、峠、越したのかよ!」


「お前がぐーすか寝てる間にな」


シャマルに一言文句言ってやろうと思って口を開きかけた俺は、シャマルの口から飛び出した名前に、その苛立ちが全て吹っ飛んだ。そういやいつの間にか、夜が明けて、暗かった病室には太陽の光が差してやがる。俺、この一大事に寝ちまってたのかよ。あり得ねー。


取り敢えず、言われた通りに愛から手を離して後ろに下がった俺は、シャマルが容態を確認している間、妙な手出しをしないかを見張っていた。いくら重傷患者っつっても、コイツにゃあ関係ねェ話だ。


だが、俺の心配をよそに、シャマルの表情は至って真面目だった。特に妙な行動も無く、診察が終わったかのように思えたその時、愛の手を握ったシャマルにハッとして慌てて駆け寄った。


「愛ちゅわーん、もう大丈──のわっ!?」


「お約束な奴だなテメェは!」


俺は、何かされる前に、と愛からシャマルを引き剥がした。油断も隙もあったもんじゃねー。けどまあ、これで愛がもう心配いらねーってのは分かった。シャマルがこんだけ騒いでんなら問題ねェだろうからな。


「おー痛ー。…ったく、少しは加減しろ」


「ンな事はどーでもいいんだよ。──で、もう大丈夫なのかよ」


「一応な。だがまあ、意識が戻らねェ事にはなんとも言えねーな」


一応確認の為に聞いてみたが、後は意識が戻るまで何とも出来ねーってだけ。だったら、コイツなら大丈夫だ。十代目も見舞いに来て下さって──、そういや十代目の姿が見当たらねーな。それに、俺にかけられてた上着って、十代目の──。


「おいシャマル、十代目は本部に戻られたのか?」


「──さあな、俺が来たときにはお前しかいなかったぜ」


妙な胸騒ぎ。愛がこうなる前にもあったそれとよく似るものを感じた俺は、直ぐにシャマルが何かを隠してることに気がついた。


「どこ、行ったんだよ」


「─…知ってどうする。病み上がりのお前が、アイツの助けになるとでも思ってんのか」


「どこに行ったかって聞いてんだよ!」


シャマルに指摘されたことが図星だったのもあって、頭に血が上った俺は、シャマルの胸倉をつかみ上げて、声を荒げた。俺の勘が正しければ、十代目は一人で──。


「ンなの、アイツの性格考えりゃあ、分かるだろ。篠宮んとこの嬢ちゃんとこだよ」


「!──、」


何でですか十代目──。昨日、俺言ったじゃないっすか。愛がいない間は、俺が貴方を守るって。


「アイツが戻るまで、お前は愛ちゃんの傍にいてやれ。──それがアイツの望みだ」


シャマルはそう言って俺の手を静かにおろした。それに特に抵抗しなかった俺は、重力に従ってダラリと垂れ下がる腕をただじっと見下ろしていた。──俺は、どうりゃいい。なあ、お前ならこういう時、黙って十代目の帰りを待つか?


─「──ツナさんの事、支えてあげてね。あたしが出来ない分、一杯助けてあげてね」


「──…」


愛に視線を向けた俺は、ふいに昨日自分で十代目に話した愛との約束を思い出した。そうだ、コイツは俺にそう言ったんじゃねーか。だったら答えは考えるまでもねェ。


「──俺は行く」


─愛が目を覚まして一発目にどやされんのはご免だぜ。


「分んねー奴だな。お前が行っても足手まといだって言ってんだよ」


「それを決めるのはテメェじゃねーんだよ。──止めたってムダだからな」


俺の言葉を聞いて、苛立った様に頭をかきむしるシャマルに、そう言って背を向けた俺は、愛の傍に屈んで、そっと手を握った。


「絶対ー十代目と一緒に戻ってくっから」


それまで、お前は生きて俺たちの帰りを待ってろ。くたばったりしやがった許さねーからな。口に出さず心の中でそう言った俺は、最後に強く愛の手を握ってから、離して立ち上がった。


「──行って来る」


俺は身を屈めて、愛の額に軽く口付けてからそう言うと、頬を一撫でして離れた。絶対にコイツのもとに帰って来るっつー思いを再確認して。


「隼人、」


「無傷で帰りゃあいいんだろ」


俺が愛から離れて、病室を後にする為にシャマルの横を通り過ぎようとした瞬間、呼ばれた名前に足を止めた。何を言われンのかは大体分ってたから、その言葉を遮ってそう言った。お前に厄介になるような傷を負う気は元よりねェんだよ。


「無様な姿、晒すんじゃねーぞ」


「──愛のこと、頼む」


病室の出入口の扉に手をかけた俺は、シャマルからかけられた言葉に、それだけ言い残すと、静かにその場を後にした。向かうは篠宮のファミリー。──今行きますんで、待っててください十代目。


「──まーた、俺がどやされんじゃねーか」


「──、や、…と」


「!愛ちゃん、!」




***

「恭さん、上からの指示で愛さんの警護に当たるようにとの伝令がきてます」


「何だい、それ」


「沢田綱吉、獄寺隼人の双方が篠宮のファミリーに向かったため、誰か警護にと──」


「──…、」


その会話が交わされたのは、今から少し前の話だね。この僕に愛の警護をやらせるなんて、いい度胸だよ。勝手な行動をとったあの二人は、帰ってき次第、咬み殺す。


そんなことを考えながら、本部にある医療施設に出向いてくれば、一番奥にある愛の病室は静まり返っていた。まあ、あれだけの傷だ。意識はまだ戻ってないだろうね。


僕が病室の目の前まで来て、仕切り扉を開けて中に足を踏み入れれば、予想に反して起き上がっていた愛の姿が目に入った。──ワオ、あれだけの傷を負って、もう意識が戻ってるなんて、君一体どんな身体構造してるの。


「──だ、れ?」


「?──愛?」


「!──恭弥…?」


どこか安堵した僕は、愛のいるベッドまで近寄って初めて彼女の様子がおかしいことに気がついた。こんなに近くにいるのに声を発するまで僕に気がつかなかった。それに、目の焦点が合ってない。


「愛、目が見えてないの──?」


「!み、見えてるよ。ただちょっと霞んじゃってて…」


そう言った彼女の声は上擦っていて、僕が今いる場所を捉えきれていない。そう言えば、使用された弾は特殊弾だったね。その効果がこれか。


必死に目が見えていない事を隠そうとする愛の両頬に手を添えた僕は、そっと上を向かせて僕がいる位置を教えた。


「!あ、あたっし──」


「──…」


「お願いっ、隼人達には、…皆には黙っててっ」


僕に目が見えないと知られて、必死にしがみついてくる愛の瞳からは大粒の涙が溢れてきていた。愛のことだ。目が見えないと知られれば、迷惑がかかるとでも思ってるんだろう。


「──君は何も心配しなくていいよ。大丈夫だから」


震える愛の身体をそっと抱き寄せた僕は、出入口の扉の傍に立っている、全てを知っているだろう人物に目を向けた。目で話があると促されたけど、今この子をこんな状態で一人にするわけにはいかない。


「まだ本調子じゃないんだろう。僕が傍にいるから少し休みなよ」


小さく頷いた愛の頭を撫でると、少し震えが収まった身体を預けてきた愛はそのまま瞳を閉じた。不安定な愛は何をしでかすか分らないから目が離せない。変な気を起こされたら困るからね。落ち着くまで暫くは、こうしててあげるよ。




....
(で、何で愛の視力が失われてるの)
(まずはその物騒なモンしまえ;)
(…いいから早く説明しなよ)
(わーった、わーったから!)




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