人の疑念は相手の細かい行動からも生まれるモノ───…
───疑い事
ちゅん、ちゅん───
「ん…」
小鳥のさえずりにまだボーッとしながら重たい瞼をあげた。
「…ー」
隣で眠っているのは昨晩とんでもないことをしてくれた隼人。
「幸せそうに寝ちゃって…」
「ん……」
「そろそろ起きてねー」
隼人はあたしを抱きしめたまま気持ちよさそうに可愛い顔しちゃって眠ってる。あたしは、そんな彼が傍にいることを幸せに思いながら、枕元に置いてあった携帯に手を伸ばして時間を確認するともう朝の九時で…!
「や、やばい!」
「愛、煩ぇ…」
ガバッと起きあがってそう叫ぶと隼人に手首を掴まれ、グッと引き寄せられた。って狽たしそんなことでトキメいてる場合じゃないんだってばー!
「隼人!今日はお茶会なんだよ!?大事な契約結ぶ日じゃん!今、朝の九時!」
「狽ネ!」
あたしが早口言葉でそこまでまくし立てると、彼は布団から飛び起きて時間を確認した。
「やべ、つい…」
「あたし一回部屋戻らないと怪しまれ──」
コン、コンッ───
「隼人、起きてる?そろそろ俺の部屋来て欲しいんだけど」
「「?!──」」
あたしの言葉を遮って聞こえたノックと一緒に響く凛とした声。
や、やだ…。
間違いなくツナさんだ!
このままだと確実にバレちゃう。
隼人と顔を見合わせて驚き合っていると隼人が思いついたようにあたしにそっと囁く。
「え?でも…」
「とにかくそれで誤魔かせ」
隼人の真剣な顔に頷いたあたしは深呼吸してから部屋から出る。大丈夫、隼人が言うなら心配いらない。
「…愛?」
「おはようございます!あたしってば部屋間違えちゃって」
ツナさんにこんな嘘通じるなんて思えないんだけど、今は変に怪しまれないように。それに、あのまま部屋でこそこそ隠れて見つかった場合を考えると、こっちの方が妥当な手段だ。
「…ふぅん」
「何ですか、人を小馬鹿にしたみたいなその目は!」
「…お前の部屋向かいだろ。間違えるとかありえない」
「!」
って思ったのも束の間。隼人ー!早速ばれてますけどー何とかしてくださいよー!涙
「それに…」
「いでっ!」
ビリッと音を立ててあたしの肌から引きはがされた絆創膏。隠していたキスマークが露わになる。
「…誰につけられた」
「え?」
ツナさんの瞳が鋭くなりあたしをキッと睨みつける。あたしはその瞳から目を逸らせずに、怖くて後ずさってしまう。
「十代目、どーしたンスか?」
「!…隼人」
そこに現れたのは隼人で、さっきまでの雰囲気を一ミリも出さずにあたしの事を見下ろす。
「隼人さん」
「あ?人の部屋勝手に入って来やがって十代目にまで迷惑かけてんじゃねぇよ」
ダイナマイトをちらつかせながら冷たく言い放つ隼人を内心笑いながらムスッとした顔をしてみせる。
「悪かったって言ったじゃないですか!」
「それが反省してる奴の態度かよ、アホ女」
「アホ?!隼人さんだけには言われたくない!」
「んだとてめー!果たすぞ!」
こうして喧嘩するのもいいよね。隼人があたしにそうやって怒鳴る姿は出逢った当時を思い出すから。
「愛と隼人って仲いいんだか悪いんだか分かんない」
「「よくないッス(です)よ!」」
「真似しないでください」
「どっちがだ!」
ツナさんに怪しまれないようにと始まった喧嘩も始めてしまえば歯止めが利かなくなって…。いつの間にかお互い本気になってたりするのよね。
「ほらいい加減にやめろって」
「ツナさんも何とか言って下さいよ!朝部屋間違えただけでこんなっ!」
「分かった分かった」
ツナさんは困ったようにあたしの頭を撫でて隼人に苦笑いを浮かべているみたい。ごまかせたみたいね…。
チラッと隼人を見ればいつものように一瞬だけ視線を合わせてくれた。うん、大丈夫だ。
「ツナさん、行こ」
「ひっつくなよ」
あたしはボロがでる前にとツナさんの腕に抱きついて行こうと促す。ごめんね、隼人。
「いーじゃないですか。婚約者だし」
「表向きね」
そう、表向き。だから早く大切な人見つけて下さい…。
「そうそう、早くいい人見つけなきゃ」
「何、好きな奴でもできた?」
「んー。ツナさんは好きですよ」
いるよ。貴方のすぐ後ろに…。
あたしが愛した大切な人…。
「何だそれ、俺が結婚したらどうすんの」
貴方は苦笑しながらあたしの頭を撫でるけど、そうなってと心で強く思うあたしの気持ちは知らないでしょ?
「武さんにでももらってもらいます」
「山本ね、隼人は?」
「え…?」
ふいに出された隼人の名前に過剰に反応を示してしまった。やだ…。
「け、そんなのこっちから願い下げッスよ」
隼人…、
「ツナさん、あたし嫌です。あんなの」
「あんなのって何だよ!」
「また喧嘩する…。まあ、喧嘩するほど仲がいいって言うけどな」
「「言いません!─」」
「はぁ…」
喧嘩しながらもあたしの胸を渦巻くのは、嘘であっても隼人に否定されたことで、無性に泣きたくなる気持ちを必死に堪えた。
隼人だってあたしがツナさんにひっついてたら辛いでしょ?ね、少しは妬いてくれてる?
あたし、隣にいるのがツナさんじゃなかったら直ぐに隼人に抱きついてるよ…。
ギュッ───
「愛?」
「何でもないです」
「───…」
あのバカ。冗談で言ったこと分かってんだろ?何そんなに思い詰めてんだよ…。
辛いのはお前だけじゃねぇんだよ。俺だって、お前が十代目にくっついてるだけで…嘘でも好きだって言うだけで胸が押しつぶされそうになんだ。
愛の隣にいるのが十代目じゃなけりゃ直ぐ様引き離して、抱きしめてんのに…な。
小さなことでも、二人にとっては大きなすれ違いともなりうる。
それでもこの半年、互いに愛し合ってこれたのはそれが本物の愛だから…。
そんな二人を見えない影が鋭くとらえていたことをまだ二人は知る由もなかった。
....
(好きすぎて小さい一言がキツイ)
(もう手放しちゃやれねぇんだ) |