互いの意志を確認し合い、正々堂々と勝負することを──… ───互い事 恭弥に渡された書類の内容は、昨夜のうちに隼人にも知らせて、二人で話し合った結果、今はまだツナさんを第一に考えて行動しようということに決まった。 あたしの役職回復と仮婚約の任の退任がうんだ混乱はまた上層部を揺るがすことになってしまったようで、今朝からお偉い方さんに質問責めされた。まあ何とか切り抜けたけど、今日からまたいろいろ大変そうだな…。 だけど、隼人と話し合って決めたことを今更曲げるつもりはない。ツナさんをサポートしたいって思う気持ちは今も昔も変わらないことだから。 あたしはツナさんの執務室前まで来ると、一度気持ちを落ち着けるために、大きく深呼吸をしてから軽くノックをして、ドアノブに手を伸ばした。 「失礼します」 扉を開いて、久しぶりに足を踏み入れるツナさんの執務室。スーツに身を包み、身なりを整えて入ったそこには、あたしが秘書として働いていた頃の面影というものが一つもなくなっていた。 というのも、山積みにされた書類に頭を抱えているツナさんがいるってことなんだけど…。ここまで仕事を溜めてたなんて知らなかった…。 「ああ、愛。お帰り…」 「……、大丈夫ですか?」 執務室に入ってきたあたしに気がついたのか、顔を上げて弱々しい笑顔をあたしに向けるツナさんに、隼人とのことを話しにきたことよりも、目の前のこれを片づけなきゃいけないって事で頭が一杯になった。 「悪いんだけど、先仕事してもらえる?──隼人には後で来るように言ってあるから」 その時に話しよう、と続けたツナさんに頷いて、あたしはとにかく急ぎ目を通さなければならない書類をまとめていく。何か、骸さん担当が多くない?…これとか、昨日までだし…。 「あの、ツナさん…」 「んー…?」 「任務報告はまだいいとして、骸さんから寄せられてるこの報告書って…、急がなくていいんですか?」 あたしが他の書類を片づけてるツナさんに持って行ったのは、淋のファミリーの動向を調べて纏めた報告書や、ここ最近、ボンゴレの裏で動く厄介な組織について纏められた資料だった。 「──!やばっ!愛、至急、骸のところに伝達に行って、この計画にストップかけてきて」 「!はいっ」 あたしが渡したそれに書かれていた事を目に通したツナさんは、慌ててあたしに骸さんの元へ行くように告げた。 あたしはそれに頷くと、急いでそこを飛び出し、骸さんたちがいる部屋へ向かって走った。 *** 愛が俺の執務室を飛び出して直ぐ、入れ違いに部屋に入ってきたのは、俺が呼んでおいた隼人だった。 「スイマセン十代目、遅くなりました!」 「いいよ全然。愛は今ちょっと伝達にいってもらってていないから、座れるとこに座って;」 書類の山で足の踏み場も危うかったけど、愛のおかげで少しは片付いたし、座るスペースはなんとかあるからね。 苦笑しながらそう言った俺に、隼人も苦笑して、失礼します、と一言言ってから、さっきまで愛が座っていた場所に腰を下ろした。 「十代目、俺に出来ることなら手伝いますが」 「ああ、うん。じゃあ愛がやってた資料整理頼めるかな?」 「はい」 何か俺、隼人に対してよそよそしいかな?資料整理を始めた隼人を横目にそんなことを考えながら、少し重たい空気の中、俺も自分の仕事を片付けていく。 暫くは、俺がペンを走らせる音と隼人が資料整理をする紙がすれる音だけが響いていた。 そんな空気を打破したのは、俺ではなく、隼人の方だった。 「あの、十代目…」 「…ん?」 躊躇いがちにかけられた声に、ペンを走らせる手を止めた俺は、隼人の方に顔を向けた。 「十代目は、アイツを──」 「ごめん。まだ諦めてない」 「!そう、ですか…」 隼人が何を言おうとしているのか分かった俺は、隼人が全てを言い終わる前にそれを遮った。そして俺が口にしたのは、紛れも無い真実。─本当はこの気持ちは俺の心のうちに留めておくつもりだったんだ。 だけど、そんなの卑怯じゃん? 「俺は、もう二度と汚い手は使わない。──隼人とは正々堂々勝負したいんだ」 「!──はい。その勝負、俺も全力で受けます」 付け加えた俺の言葉は、真っ直ぐ隼人まで届いたみたいだ。俺を見返す隼人の瞳には、迷いの色が見えなかったから。 さっきまでの重たい空気が嘘のように、俺達は互いに互いの意志を確認しあい、笑いあった。 愛争奪戦が今、再び始まろうとしていた。 .... (にしても愛遅いッスね) (骸の奴、愛にちょっかいかけてないといいんだけど) (骸さん!) (クフフ、分かっていますよ) |