忘れていた己の奥底に眠る気持ち、気づけたならば最良──…
───巡り事
「全然片づいてねぇじゃねーか」
「んー……」
「秘書もつけねぇで仕事溜めやがって、何のつもりだ、」
「んー……」
「……、5秒待つ。まともな返事しやがれ、ダメツナが」
「ん、!えっわ!ちょ、タンマ!」
ツナの奴大方、俺が部屋に入ったことすら気づいてなかったんだろうな。机に山積みにされた書類に一つも手つけねぇで、頭ん中は愛のことで一杯か。んな事なら秘書からおろしてんじゃねぇよ。
ツナに向けた銃の安全装置をはずした俺は慌てるツナからそれをおろし、盛大な溜息をついた後、ソファーに腰を下ろした。
「何しにきたんだよ、」
随分な言いぐさだな──。
「言われなきゃわかんねぇほどまで落ちてんなら、脳天ぶち抜くぞ」
「……頭で分かってても心が追っ付かないんだ。俺、どうしたらいいか分かんない……」
愛が俺じゃなくて隼人を選んだ理由も、隼人が俺のために愛への想いを抑え込んでたのも全部わかってたんだ。…だから二人が幸せになれるのが一番だって事も──。
「……愛はここ最近、ろくに飯も食わねーで働きづめだ」
「え──、」
「獄寺とも必要以上に干渉しなくなったな」
「!───…」
愛を秘書から外して数週間、あいつと関わることを頑なに拒んできた俺が、今の愛の状況を知るわけもなく、リボーンから聞かされた今の状況に思考回路がストップした。…俺が愛を追いつめて苦しめてる…?
「あいつの人柄はお前もよく知ってんだろ。──ちったあ考えてやれ」
リボーンがそう言って部屋を後にしてから、俺の頭を過ぎっていくのは、愛が俺の秘書としてボンゴレに迎えられてからの日々──。
嫌な仕事も顔色一つ変えないで一生懸命取り組む姿は、俺も、守護者の皆も惹きつける力があった。
雲雀さんの幼馴染みなだけあって、度胸はすわってるし、女扱いされて弱者と見られることを嫌って、弱音一つはかない、強い女だって──、
俺はそう思ってたんだ──。
─「十代目、あいつ…今日ちょっと熱っぽいみたいですし、休むように言って下さい。俺じゃ言うこと聞かなくて…」
─「え、愛が?」
─「はい。いつもより動きが鈍いっつーか、何かおかしいンスよ」
─「!──、わかったよ。わざわざ知らせてくれてありがとう、隼人」
驚いた。俺の目にはいつもと変わらない愛の姿しか映ってなかったのに、隼人の目には、熱で怠い体を引きずって無理に仕事してる愛が映ってたなんて──。
実際その時の愛は、高熱があって、とてもじゃないけど無理させられる体じゃなかった。
多分その頃からだったと思う。隼人がよく愛と関わるようになって、ちょくちょく喧嘩をしては、俺には決して見せない一面を隼人に見せるようになっていったのは──。
そして、あの思い出したくもない誘拐事件が起きた。確かあの時も、隼人は冷静になれない俺を落ち着かせて右腕として申し分ない働きをしてくれた。
今思えば、俺は昔から隼人に助けられてばかりだったじゃん…。隼人だけじゃない。いつも俺を傍で支えてくれてたのは、愛だ。
そんな二人を¨部下¨に持てた俺は幸せ者じゃんか。何でそんなことも忘れてたんだろう…。
俺の認めた二人なら───、
もう、反対する理由なんて──。
***
「久しぶりに一緒に寝たね」
「…ああ」
隼人が涙を流して、重ねた唇から感じた熱に身を任せ彼に身を委ねてから暫く、温かい彼の腕の中で久しぶり一夜を共にしたあたしと隼人。
あたしは、隼人に腕枕をしてもらっている状態で彼の久しぶりに感じる温もりを感じていた。
「ねぇ、隼人──」
「…ん、」
「大好きだよ」
「!──、知ってる」
現金なあたしが憎くて、心は悲鳴を上げてるのに。目の前にある隼人のあたしを見つめる瞳は優しくて温かい。
本当はあたしだってずっとこうして隼人と一緒にいたい。だけどあたしが幸せになる傍らで傷つく人がいること、それを忘れちゃいけない。
あたし一人、幸せになるなんて出来ないの。あたしが隼人の前から、ツナさんの前からいなくなってしまったとしても、二人の心はきっと、救われたりなんてしない。
また傷つけて終わるだけ。あたしの自己満足なだけなんだよね──?
だったらあたしは、あたしは一体どうやって貴方たちと向き合えばいいの?
「お前はバカがつくくらいのお人好しだ」
「え──?」
あたしの考えていることが全て、分かっているとでも言いたげな隼人の瞳に見つめられて、頬に触れる彼の手の温かさを感じながら、真っ直ぐに彼を見つめ返すと、そっと後頭部に回された手に身体を引かれ、彼の腕の中に抱きしめられた。
「十代目も、自分のことより相手を優先する心優しい方なんだ」
「隼人……」
隼人の表情は見えないけど、ツナさんのことを話す彼の声色はとても優しくて、ツナさんを深く慕っているのは、聞かなくても心に染みてくる。
「……十代目がお前を選んだ理由と、俺がお前じゃなきゃダメな理由は同じなんだよ」
「理由……?」
夜が更ける中、布団の中で感じる貴方の温もりは何処かいつもと違った。
....
(いくら突き放しても寄ってきて、)
(こんな俺をいつも心配してくれた…)
(ボスとしてじゃない俺を、)
(俺自身を見つめて支えてくれた…)
((そんなお前だから))
((──好きになった)) |