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第12夜 涙し事『傷つくココロ』
望んでいたはずの君が傍にいる、だけど何かが違う──…















───し事


















あれから──、婚約を破棄してから早くも数週間がたった。その間に変わったことはいくつかある。


先ずは淋のファミリーがボンゴレと結んでいた同盟を絶ったこと。そしてあたしは、ツナさんの秘書から外されたということ。仮婚約者の立場はまだ健在だけど、ツナさんと会う機会は格段と減ってしまっている。


今のボンゴレでのあたしの役目は、守護者たちのサポートとリボーンさんの側近みたいな感じだ。


「愛、」


「隼人……」


そして自分たちが望んだ関係が今そこにあるはずなのに、喜べないでいるあたしと隼人は、お互いにどこか余所余所しい接し方になっていた。


私情は口にしないし、前みたいに恋人らしいことも一切してないように思う。だけどあたしの隼人への想いは今も昔も変わりない。


「少し休め。休憩とってねぇだろ」


「いいよ、平気だから」


気遣ってくれる貴方の言葉が余計に胸を締め付ける。あたしはどんなに身体が怠くても、傍に隼人がいてくれれば何もいらないのに…。


「強がってぶっ倒れたらどうすんだよ!最近ろくに飯も食わねぇで、全然寝てねぇじゃねーか!」


「っ!」


そんなこと、言わないでよっ。あたしだって自分の身体には一番気を使ってたはずなのに…、ツナさんの為に自分は身体壊しちゃダメだって思ってたから。だけど、だけどもうその必要なくなっちゃったんだもん。


「ツナさん傷つけてボロボロにしたのあたしなのにっ!あたしが普通に幸せになんて、出来るわけないじゃん!」


「!──」


涙が溢れて───、
どういう感情からくるのか
分からなくて──。


「あたし知らなかったんだもん…っ。ツナさんにあんなに想われてだなんて、知らなかったのよ!」


「──っ」


仮婚約者の役を任されたとき、捨て駒にされたと思った。ボンゴレにスカウトされて直ぐだったから、ああ自分はその為にって──。


だから絶対に死ぬもんかって、必死に戦闘技術も、必要な知識も全部身につけた。自分の力で生き延びるために──。


だけど、だけど貴方はそんなあたしを自分の命を懸けてでも守ろうとしてくれた。こんなあたしを──。


─「遅くなってごめんな…っ、怪我はない?」


─「俺の婚約者なんだから守るのは当たり前だろ」



その時、はじめてあたしは貴方に、ツナさんに生涯ついていこうと決めたの。だけどそれは一人の¨部下¨としてだった。¨女¨としてではなく¨部下¨として貴方を尊敬していたから。


「あたしは、部下としてツナさんを守りたかった…、傍にいたかったの!」


「──、分かってる。んな事、分かってんだよ」


グイッと引かれた腕に感じた包容感は、隼人があたしを抱きしめてくれたから。久しぶりに感じた彼の温もりは、温かくて懐かしかった。


「だからあたし──、」


「言うな。言うんじゃねえっ」


だからあたし、まだ貴方の傍にいていいわけない。誰かを犠牲にして手に入れる幸せはいらない。


と、あたしが言うのをきっと隼人は分かってたんだと思う。あたしを抱きしめる腕に力がこもったこと、遮ったことがその証。


「あたしは人が傷つくのが嫌なの。それが大切な人なら尚──!」


「言うなっつってんだろ」


「っ、隼人っ!離し、んっ」


それでも続けようとしたあたしの唇は、隼人の強引なキスによって塞がれ、言葉の先を紡ぐ事が出来ない。


「俺なら我慢できると思ってんのか?──ふざけんじゃねえっ」


「はや、と──?」


やっと強引なキスから解放されたときには、部屋の隅の壁に押しつけられていた。見下ろす隼人の瞳が初めてあたしを鋭く睨みつけた。


「俺がどんな想いでお前と十代目を見てきたか、お前に分かんのかよ……っ。欲しくて、触れたくてたまんなかったお前を、黙って見てることしかできなかった──っ」


「!───、」


あたしの顔の両隣に腕を押しつけて、消え入りそうな声でそう言った隼人は、顔を俯かせて銀髪で隠れた顔から表情を読みとることが出来ない。


「好きだ…、愛が好きなんだよっ。少しでも距離おかなきゃなんねーのが、辛くて仕方ねーんだよっ!」


「!──、あ…っ」


ここまで取り乱す隼人は初めて目にする。顔を上げた彼の頬には、パーティーの時のツナさんと同じ涙が伝っていて、…そこからあたしは目を逸らすことが出来ない。


また傷つけた──。自分の大切な人を二人も。……どうしてあたしは人を傷つけることしかできないの──?


あたしが隼人を好きにならなければ誰も傷つかなかった?ボンゴレのスカウトを断っていれば、そうしていれば今も貴方とツナさんは笑い合って過ごしていた…?


「ん──、」


その時、重ねられた唇は涙の味がして、これまでで一番に長いキスだった。




....
(人を幸せにするのは)
(難しいことだ──)
(だけど人を傷つけるのは、)




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