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第10夜 催し事『踏み出す一歩』
目の前にある現実と、誓った約束どちらを信じるか、それは己次第──…















───し事


















隼人に会える、ただそれだけの為にツナさんに連れられてある会場に案内されたあたしは、さっきから妙に嫌な感じが頭をぐるぐるしてる。


「……」


不安、それが一番しっくりくる言葉で隣にいるツナさんはさっきから妙に上機嫌。お偉いさん方と笑顔で言葉を交わしているあたり……。


「何、俺に見惚れてんだよ」


「……あのー、誰がですか?」


「照れなくてもいいのに」


ニコッと笑顔に効果音がつくくらいの勢いであたしの頬を引っ張るツナさんに背中を冷や汗がダラダラと流れる。これはちょっと危険…。ていうかあたし、喋らんないじゃん。


だけどその恐怖に引けを取らない絶望が、すぐそこまで迫ってきていた。


「皆様、お待たせしました。本日は我が娘、淋とお世話になっておりますボンゴレの嵐の守護者、獄寺隼人殿との婚約披露宴に御足労頂き、誠にありがとうございます」


こんやくひろうえん……?
え、誰と誰が?


あたしの前に、祝いの席についた二人はよく知る顔と顔。そして司会者が告げた言葉に動揺を隠しきれないあたしは、持っていたワイングラスをその場に落とし割ってしまった。


それで集まった視線も気に出来ないほどに、そんな余裕もなくてあたしの瞳は真っ直ぐに隼人をとらえた。それに応えるように隼人の瞳もあたしをとらえて離さない。


「今回この様な祝いの場を設けてくださいました我らがボス、沢田綱吉様より──」


あたしがグラスを割った騒ぎはそこまで大騒ぎにはならず、直ぐに片づけられた。だけどあたしはまだ放心状態で、絡まる隼人との視線がどうしようもなく胸を締め付ける。


¨もう、俺のことは忘れろ¨
そう言われてるみたいで、言葉を発することも、その場から動くことも、……目を逸らすことさえも、何一つ出来なかった。


「隼人、淋さんおめでとう。二人の婚約、心からお祝いするよ」


「ありがとうございます」


やだ……


「淋さんは俺の未来の奥さんとも縁の深い人だから安心だね」


「あら、光栄ですわ」


未来の奥さん────?
笑わせないでよ……


あたしと淋を交互に見て微笑を浮かべるツナさんは目が笑ってない。まるでこれで諦めもつくだろうと言っているような、そんな冷徹な瞳があたしを映してから隼人に向けられた。


「隼人も大切にしなきゃダメだからな?いつも愛に取ってる態度じゃ、彼女繊細だから傷ついちゃうし」


ツナさんの言葉にどっと笑いがもれたけど、あたしと隼人の顔に笑顔はない。彼の言葉があたしと隼人を完全に引き離すと、そう物語っていたから…。


「はい」


重苦しい空気なんて全く感じてない周りの人たちにこみ上げる怒りは引きそうもない。ギュッと握った拳から血が流れても、痛みさえ感じなくて…。


ギュッ─────
そんなあたしの手を優しく包み込んで握ってくれた誰か。あたしが顔を上げた先にいたのは中々会う機会がない懐かしい幼馴染みの横顔。


「痛みで自分を保とうとしなくていい。君が我慢しなきゃならないなんて誰が決めたんだい?」


「恭、弥……」


そう、あたしの手を握って前を睨みつけながらでも優しい声色であたしを宥めてくれるのは、あたしが小さい頃からいつも頼りにしてきた、いつもあたしを助けてくれた大事な幼馴染みの恭弥だった。


「あたし───っ」


「知ってる。───愛は不器用だから。それでいてバカだしお節介だし、いつも自分より他人を優先するしね」


「ははっ……褒めてくれてありがと」


「別に褒めてないよ」


あたしの言葉を遮って紡がれた恭弥の言葉は真っ直ぐにあたしの心まで届いた。自分に素直になることはあたしも隼人も得意ではない。ただ、自分の気持ちに素直になって行動を起こすのはどちらも苦手で、勇気が足りない。


踏み出す一歩が遅ければ遅いほど、溝は深まるし、取り返しのつかない事態を招く。ツナさんと淋はその手助けをしてるから。十分に溝は深くなった。


それでもまだ、あたしは隼人を信じてるし、彼を心から愛してる。その気持ちに嘘も偽りも存在しない。それがあたしだけじゃないって、そう思ってもいいでしょ?


隼人がやらないならあたしがやる。
隼人が信じないならあたしが信じる。


隼人があたしを愛してくれるなら、信じてくれるなら、何度だってその手を取る。何度だって愛してるって気持ち伝えるから。


「恭弥、怒られたら助けてね」


そのあたしの言葉に笑ってくれた恭弥の手をもう一度、ぎゅっと握ってからそっとその手を解く。最後に頭を撫でてくれた温かくて優しい恭弥の手に背中を押されて一歩、また一歩と前に足を踏み出した。


「あ、愛様!何を!?」


「あたしからもお祝いをしようと思うんだけどダメかしら?」


「あ、は、はあ」


司会者から奪ったマイクに、一斉に集まる視線を無視して真っ直ぐに淋と隼人を見つめると、大きく深呼吸してから口を開いた。


「淋、あたしに隼人を返して」


あたしの一言にその場が騒然となったのは言うまでもない。




....
(フッ、流石は愛だな)
(隼人もそれに応える勇気があればいいんだけれど)
(アイツはお前の弟だ。惚れた女一人守れねぇ様な情けねー男じゃねぇぞ)




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