腹黒カレシのお気に入り
特訓
「まずは先輩の事について知りたいな。
僕に話ししてみてくれますか?」
「僕の…はなし?」
「はい、僕、先輩について何にも知らないし、知ってる事は、周りの評判だけですよ?先輩は、それでいいんですか?」
「………」
周りの評判…か。
僕と小鳥遊くんは、今、中庭で少し大きめのお弁当を二人で突きながら話をしていた。
小鳥遊くんは、ひとつ年下なのに色々しっかりしている。
今日も僕が人付き合いに慣れるように練習に付き合うため、僕と小鳥遊くんの授業がないのが重なる時間帯にこうやって付き合ってくれるし、僕がお昼を抜く事を見越して、こうやって、弁当まで持ってきてくれた。
「人と仲良くしたいんだったら、まずは自分を知って貰わないといけないですよ?」
「…うん」
「…じゃ、こうしましょう。まずは僕が質問しますから、それに答えることから始めてみましょうか」
「…うん」
僕は、話せないわけじゃない…と思う。
短文は、話せても、長文を話すと何故か、声が震える。だから、話すことに躊躇していた。
「大丈夫ですよ。ゆっくりで。」
それを汲み取ってくれた小鳥遊くんが質問から僕を引き出そうとしてくれるんだ。きっと。
なんとか、期待に応えたい。
「それでは、手始めに家族構成から教えてください」
「…母と、父、僕です。後、犬飼ってる」
「へ〜!そうなんですか。先輩って一人っ子なんですね。今は、実家暮らしですか?」
「…あ、いや、今は、1人だよ」
「一人暮らしなんですね。いいな〜。僕も一人暮らししたいな。楽しいですか?一人暮らし」
「…普通…だよ」
いつか、小鳥遊くんも遊びに来てねとか言ってみたいけど、友達とかじゃないし、そんな事言えないな…。
それから、何個かまた質問され、それに答えるという特訓を繰り返した。小鳥遊くんは淡々と答える僕の話を、いつもの笑顔で受け止めてくれていた。
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暫く、そのやり取りをしていると、不思議な質問を今、受けていた。
「…ごめん。小鳥遊くん。…もう一度」
悪戯っ子のような笑みを僕に向けながら、
「ふふ。だからですね、先輩は誰かとした事ってありますか」
…した事?
確かに僕は、人との付き合いが乏しすぎて、誰かと共同作業なんてあまりした事が無かった。
「…どゆことだろ」
僕が、頭の中で色々考え、その質問の意味を探していると、
「ふふ。可愛いな〜。質問の意味…。分からないですか?」
ふっと、頬に小鳥遊くんの手が添えられたかと思うと、
「だったら、俺が教えてあげますよ」
下を向いていた顔が、その手に誘われるかのように上に上がる。
「こっち、見て」
そして、少し雰囲気の変わった小鳥遊くんと目があった。
いつもは、優しい眼差しの小鳥遊くんの表情は、笑顔なのだけれど、その瞳は熱を帯びている様に思えた。
瞳を合わせたまま、僕より少し背の低い、小鳥遊くんの端整な顔が、下から、徐々に近づき、そしてーーーー
ーチュッ
「!?っ」
…何が起きた?
「やっぱり先輩って可愛いよね。
…すごく……」
そう言って、小鳥遊くんは僕の耳に唇を寄せると、
「苛めたくなるよ…。」
と、いつもよりも低い声で、呟いた。
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