妹曽
疑心暗鬼
※パロ
四方から飛んでくる敵の攻撃を屈んで避け、隙をついて薙ぎ払うように切ってやった。
血飛沫を上げながら倒れていく様を見ながら命の儚さを肌で感じとった。
ぱちぱちと乾いた音。
この場には似合わない拍手音。
まぁ相手何て分かりきっているんだけど。
呆れの溜め息を吐き音の方に目を向ける。
「流石、曽良さん。見事な切り方ですね」
胡散臭い笑みを張り付けて人の死体に乗っている妹子さんは異様な雰囲気を発している。
血の臭いが充満しているというのに何故妹子は笑っていられるのか曽良には理解できなかった。
この場所から早く去りたい、その気持ちが曽良を急かす。
「僕日頃思うんだけど曽良さんって赤や血とか似合うと思うんですよ。ほら、白い肌には赤が栄えるっていいますよね」
ひょいっと人の上から飛び降りると曽良の方へと足を進める。
変わらない笑み。
吐き気がする。
ひゅっと風の切る音とともに妹子の首に突き付けられる剣。
後一歩でも間違えれば首に突き刺さっていたであろう距離。
それでも妹子の笑顔は崩れない。
「あんまり近づかないで下さい。あなたに近づかれると虫ずが走るんです」
「ひどいなぁ。曽良さんと僕はパートナーの中じゃないですか」"パートナー" この世界一般的にはそう呼ぶのが相応しいだろう。
成人した男性は皆この国の為に異国者と戦う。
国のために命を捧げるなどという事は曽良には興味などなかった。
ただこの世界に男として生まれたなら避けては通れない道。
国の命令に背けば死刑。
それが分かってるなら尚更。
戦う時は2〜3人。
別に国のために戦うのは嫌じゃない、それは仕方ない事として百歩譲っても何故僕が妹子さんと組む事になったのかは疑問だ。
正直に言ってしまえば妹子さんとはまるで合わない。
曽良は計画的に行うが、妹子の場合はまるで自由奔放、気ままに人を殺している。
これではまるで何のためのパートナーだと一回怒ってみたがあの奇人にはまるで通じない。
パートナーは国の1番偉い人が選ぶというが、どういう経緯で僕と妹子さんがパートナーになったのか。
聖徳太子だか何だか知らないけど、その節穴の目を一回えぐり出してやろうかと思うほど、苛立っていた。
「もう仕事は終わったんで僕は帰ります」
妹子の舐め回すような視線に耐え切れず曽良は踵を返す。
だがその瞬間、地面の蹴る音とともに剣が近づいてくる気配を感じて急いで避けるが少し反応が遅れたせいか髪何本かがはらはらと地面に落ちた。
予想外の事態に曽良は目を見張るが直ぐに不愉快を醸し出した。
「何のつもりですか?妹子さん」
険悪を隠さず睨みつけても、この優男には通じず、いつもの笑みで返される。
忌ま忌ましい。
「いや曽良さんに一つだけ言っておきたいことがあったんです」
一筋の風と共に迫ってくる刃を剣を盾にして防ぐ。
刃と刃のぶつかり合う音がその場にこだました。
「実は僕、人の嫌がる顔を見るのが好きなんです。だから曽良さんがどんなに嫌がっても僕の興奮の材料にしかならないんですよ」
妹子が更に腕に力を込める。
曽良も負けじと力を込めるがこの筋肉馬鹿力男の剣を受け止めているのに限度があった。
腕が痺れてきたのを感じ内心舌打ちを打つ。
この勝負早く決めなくては……
「妹子さん。足がら空きです」
言い終わるや否や、曽良は妹子に足払いをかけバランスを失った妹子を剣もろとも吹っ飛ばす。
曽良の剣も飛んでいったかそれを気にする余裕はなかった。
地に上手く着地し飛んでいった方に目を向けるがそこには妹子の姿はいない。
「え……?」
何故居ないのか疑問を張り巡らしていたら後ろに人の気配。
振り向くよりも先に曽良の体は宙に浮かびそのまま壁に衝突した。
「っ……」
あまりの痛みに声が詰まる。
「いやー危なかった。酷いことしますよね」
悠然と現れた妹子は顔に歪んだ笑みを浮かべて倒れている曽良の上に跨がる。
「酷いって…。それはこっちのセリフですよ」
床にひれ伏していた曽良は起き上がろうとするがそれは妹子の手によって阻まれる。
前髪を思いっきり掴まれ無理矢理顔を上げさせられる。
その目は気丈にも妹子を睨む。
それに気をよくしたのか妹子は顔を近づけながら楽しそうに微笑んだ。
「曽良さんって本当に僕を楽しませる天才ですね」
もう一度微笑んだと思ったら唇に感触。
キスされてるのだと理解したと同時に背筋に嫌な汗がつたった。
「っ…!ふッ…」
何とか妹子から逃れようとするが頭を両手で掴まれ体に体重をかけられている状況で逃げるのは無に等しかった。
曽良の口内を妹子の舌が荒々しく犯す。意識が霞みはじめた時にようやく唇が離される。
銀色の糸が二人を繋ぎ妹子が舐める。
「曽良さん顔真っ赤ですね」
誰のせいだと悪態をつきたかったが酸素を吸うのに必死でそれは言葉にはならなかった。
「そんな姿見せられたら我慢できないよ」
いやらしく笑うと曽良の服に手を伸ばし脇腹を撫でる。曽良の体が一瞬を跳ねたのを妹子は見逃さなかった。
衣服を脱がそうとする妹子に身の危険を感じ渾身の力で妹子を突き飛ばすと後方に飛んで距離をとった。
まさか抵抗されるとは思っていなかったのか妹子は呆然としている。
「あんたって…人は本当に最低ですね」
荒々しく裾で唇を拭うと妹子の方を睨みつけて出来るかぎりの悪態をつく。
呆然としている妹子を尻目に反対方向に走りさる。
追ってきてないのを気配で感じとりわき見も振らずに走る。
忘れたくても忘れれない、あの手つき、欲望を孕んだような目つきそれら全てが曽良を恐怖に陥れる。
足が縺れそのまま転んでしまう。
何故自分があんな目に合わなきゃいけなかったのか。
ようやく事態を把握し、声を押し殺して泣いた。
妹子は呆然と地面を見ていた。
曽良に触れた唇をなぞるように触る。
赤く色づいた唇、恐怖に染まった目、滑らかな肌触り。
目を閉じても鮮明に思い出すことができる。
ああ興奮する。
口端が知らずと上がる。
「気付いてないと思うけど僕、曽良さんの事好きなんですよ」
あれは僕の獲物だ。
誰にも触らせない。
妹子の目は獰猛な肉食獣のように鈍く光っていた。
組み敷いてどんなに嫌がっても、泣きじゃくっても快感を与えてあげる。
そしていつか僕の元まで堕ちてくればいいんだ。
「逃げれる何て思わないで下さいよ。だって僕と曽良さんはパートナーじゃないですか」
僕の目に狂いはない。
無理に太子にお願いしたかいがあった。
妹子はいつもの笑みを張り付けると起き上がって服についた砂を手で払った。
明日が楽しみで仕方がない。
曽良の去っていった方を見つめて意味深に笑った。
(曽良さんがどんなに逃げても地獄の果まで追いかけてあげる)
-end-
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