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小説「寂寥の追憶」
3話「二度と戻らない日々」 6日 土 AM9:30
 葬式の日の朝。兄貴とこんなふうに別離するなんて、俺も他の誰も考えもしなかった。俺は泣いてはいなかったけど、虚ろな目をしていた。
 「コンラッド!」
 「よう、久しぶり」
 声をかけてきたのは長瀬光一と東雲遊楽、それと前田絵馬だった。この3人は兄貴の小学校からの同級生で、俺もよく知っている。
 「裕太君も久しぶりね」
 「それにしても、相変わらず昔の翔にそっくりね」
 「・・・・・・どうも」
 俺の頭の中は真っ白で、あいまいな返事しかできなかった。
 「なぁ、今のうちに翔の部屋、行っとかないか?」
 「そうだな、行くか」
 「裕太君はどうする?」
 「・・・俺は、行かない」
 なんとなく、今兄貴の部屋に入るのは嫌だった。たぶん、いろんなことを思い出して虚しくなってくるだろうから。
 「相変わらず、きちんと片付けてあるな」
 「懐かしいわ、家具の配置が全然換わってない」
 「翔らしいと言うか、何というか」
 「そういや、よくここでみんなで勉強したっけ」
 「中学校に上がってからはそういうことも減ったけど、小学校の頃は夏休みの終わりぐらいになると毎日来てたよな」
 「そうそう、宿題ためまくって翔に怒られたよな」
 「それは、光一だけでしょ」
 「ぅ・・・・そ、そうだっけ?」
 痛いところを指され、笑い顔を引きつらせながら、異様に目が泳いでいる。
 「そうだよ。まったく、自分に都合が悪いことは忘れるよな、光一って」
 「そ、それよりさ、裕太のしてるペンダントって、翔の?」
 焦りながらも光一は、先程から気になっていたことを口にする。
 「あぁ、あれな。なんか翔が事故に遭う3日前ぐらいに、裕太にやったらいいぞ」
 「3日前!?」
 3人ともが驚き、声をあげる。
 「ちょ、ちょっと待てよ。あれって確か、今まで誰にもやらなかっただろ?裕太でもやれないって昔言ってたじゃないか!」
 「それだけじゃねー。翔の奴、事故に遭う2日前に俺に電話してきたんだ。自分に何かあったときは、裕太を頼むって」
 「えー!?うっそー」
 声をあげたのは絵馬と遊楽で、光一は驚いたまま、口をあんぐり開けている。
 「それって、翔は自分が死ぬって知ってたってこと?」
 「さぁ?そこまではわからねぇよ。ただ、・・・・・・」
 そこまで言いかけて、俺は言葉を失った。3人とも先を促すような目を向けてくる。
 本当に翔は自分が死ぬと知っていたんだろうか。そういえば、裕太も妙な夢を見たって言っていたっけ。もしかしてあいつも・・・・・・?

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