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小説「寂寥の追憶」
1話「交通事故」 01年10月1日 月 AM6:30
 “・・・・どこだ、ここ”
 靄がかかっていて、よく見えない。でも、どこかの交差点だということは何となくわかる。少しずつ靄が晴れてきて視界が広くなってきた・・・・・・―――。
“これは、・・・・・・バイクの音?”
 音が近づいてくる。目の前を通り過ぎて、信号で止まる。俺には気付いてないようだ。ライダーの顔は、見えない。
 反対側を見るとトラックが近づいてくる。信号は赤なのに止まる気配がない。危ないと思うと同時に、すべての音が消えた。次の瞬間、バイクに衝突した。
 バイクは炎上し、それを、呆然と見ていた。ライダーの元へ駆け寄ろうとしていたが、足が竦んで動けない。だんだん気が遠くなってきた・・・・・・。
 ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、―――
 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、・・・・・・夢?」
目覚ましを止めて、起き上がって呼吸を整えた。
 「妙にリアルな夢だなー」
こういう夢はめったに見ないから少し考えてしまう。でもすぐに考えていても仕方がないと思い、リビングに向かう。そこには一足早く起きていた兄、翔がいた。
 「おはよう、裕太。今日は結構早いな」
 「・・・・おはよ、兄貴。そっちは、いつも早いな。つーか、はやすぎ!」
 「お前が遅いだけだ。無駄口たたいてないで、さっさと朝飯食え!」
 「へいへい」
 「返事は、はい、だろ。何度言えばわかるんだ!」
 「あー、はいはい」
 朝ご飯を食べて、支度して、学校へ行く。本当に普段通りの日々。ずっと変わらない、何年経っても。
 「いってきます」
 「車に気を付けろよ!それと、あんまり遅くならないうちに帰ってこいよ!」
 「相変わらずうるさいな」
 何も言ってこない。ボソッと小声で言ったから兄貴の耳には届かなかったらしい。ラッキー♪
 今日はよく晴れていて暖かい。雲は少なく青空がよく見えて、それだけで少し気分がよくなった。
 「よーっす、裕太!」
 「なんだよボーッとして、空に何かあるのか?」
 「何かなくちゃ、空を見ちゃいけないのか!」
 声をかけてきたのは、幼馴染みの妙見彼方と、加東隆。家が近くて、小さい頃からよく3人で遊んでいた。そして、今でもよく一緒にいる。昨日、何を見たか、何をしたのか、いろんなことを話し合いながら3人で登校するのが毎日の日課だった。
 「ところで裕太、昨日の宿題、後で見せてくれ」
 「はー?またかよ。隆、お前いいかげんに俺に頼るのやめろ!」
 「いいじゃん、べつに。ケチだなー、ほんと」
 「でも隆、少しは自分でやってこいよな」
 「じゃあ彼方、お前はどうなんだよ」
 「俺?俺は自分でやってきたよ。そんなの当たり前」
 「そうそう、自分でやってきて当たり前。そもそも、やってこないで人に頼るなんて虫が良すぎ」
 「チェッ、何だよ2人そろって。あー、そうだよ、どうせ俺はそういう奴ですよ」
 「ハハ、すねるなって」
 こんなことを話しながら歩いていた。ほんと、普段通りの朝だな。
 「おっす、裕太!おはよ!」
 教室に入ると百目鬼恵が、かなり明るい声で話しかけてきた。こういうときは、だいたい教えてほしいことがあるときだ。
 「よう、おはよ。で、どれだ、教えてほしいのは」
 「あっ、わかった?実は、これなんだ」
 やっぱり、そんなことだと思った。昔から世話の多い奴。俺はテストでも学年トップだから、こんなこと日常茶飯事。だけど、こいつと加納俊彦は毎日のように聞いてくる。はっきり言って、かなり迷惑だ。
 「お前さ、少しは自分で考えたりしようとか思わないわけ?」
 「だって、いくら考えてもわかんないからさ。俺は、お前みたいに天才じゃないから」
 「そうだよな。お前はバカだからな」
 「うるせー!バカって言うな!」
 「バカをバカって言って何が悪い!それに俺は天才じゃない!」
 「まぁまぁ、お前ら落ちつけって。裕太もあんまりバカって連発するなよ」
 いきなり話しに割り込んで来たこいつは、獄寺隼人。小3のときに転校してきた帰国子女。ちなみに、テストでは3番目。ついでに2番目は彼方。
 キーンコーンカーンコーン―――・・・・・・
 チャイムが鳴り、朝の会が始まった。それからすぐに授業に入った。いつもと変わらないし、俺にとって授業はつまらない。学校に来ているのだって、義務教育だからだ。大学付属の中等部から入学の通知が来てはいるが、あまり気乗りしないから無視している。ちなみに兄貴が通っている大学だ。兄貴も中学に入学する前に「入学について」っていう通知が来ていた。でも兄貴は、高等部から入学した。そんなことを考えているとあっという間に1日が終わってしまった。

 学校が終わった帰り道、俺と彼方、隆、それと苅部奈美と赤木サーラ茜の5人で陽気に話していた。
 「先生の話長かったなー。途中で眠くなってきたよ」
 「そうか?そんなことなかったけどな」
 「でも隆、お前だってあの大きな欠伸、俺見たけどなー」
 「何だよ、裕太!そういうお前こそ上の空だったくせに」
 「お前よりはマシだと思うけどな」
 「何だとー!」
 「もう!やめなよ、2人とも」
 「いいじゃない、奈美。やせておけば。それにケンカするほど仲が良いってよくいうじゃない?ねっ、彼方君」
 「確かに、仲が良いのは本当のことだしな」
 「そうだけどさ、まず裕太の性格に問題があるよ」
 「俺の性格のどこが問題だ!」
 「お前、気に入らないことがあるとすぐ人を殴るだろ?」
 「そうよね。そこは直したほうがいいよね」
 「何だよ、奈美まで。もう直らねーよ、この性格は」
 「直せとは言わないけど、少しは我慢することも大切よ。あっ、私たちこっちだから。じゃあね」
 「ばいばい、また明日。って、待って奈美!」
 「あぁ、また明日な」
 奈美とサーラと別れ、俺たち3人になった。家まで後少しだな。
 「また明日、か」
 「ん?どうした、裕太。何か暗いぞ」
 「いや、また明日って人生で後何回言えるんだろって思ってさ」
 「お前、何年寄り臭いこと言ってんだ?つか、頭大丈夫か?」
 「何でそうなる」
 「いや、だっていきなり変なこと言い出すからさ。にらむなよ、怖いなぁ」
 「それに今からそんなこと考えてもしょうがないって」
 「そうそう!」
 そう言いながら隆は俺の背を力任せに叩いた。
 「っ!何すんだ、てめーは!息詰まっただろうが!」
 「あはは、じゃあな!」
 「てめー、明日覚えてろよ!」
 彼方を伴って走り去っていく背中に怒鳴り返し、一息吐いた。ふと空を見上げると日がすでに沈んでいたので急いで家まで帰った。
 「ただいまー!って、誰もいないよな」
 まだ兄貴は帰ってなかった。うちの親父は、仕事で青森に単身赴任中。それにめったに帰ってこない。母さんは、7年前に病死している。だから、うちは兄貴と2人暮らし。
 だからって寂しいわけじゃない。1人でいるのも慣れたし、兄貴もいるし、親父なんていてもいなくても同じだから、あんまり気にしてない。
 「ただいまー」
 「あ!おかえり、遅かったね」
 「あぁ、ちょっと買い物していてな。ところで裕太」
 「・・・・・最初はグー、ジャンケン、ホイ!あいこでショ!よし!俺の勝ち、というわけで兄貴、夕飯よろしく!」
 「くっそー」
 うちは夕飯をどっちが作るかジャンケンで決める。ここ最近は俺の連勝。いやー、楽っていいなー。こんなこと言ったら、兄貴怒るかな?まっ、何はともあれ普段通りで平和が一番!

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