小説「寂寥の追憶」
9日 火 AM8:15
親父の車で学校に着くまで外の景色をぼんやり眺めていた。
「裕太、着いたぞ」
声をかけられてようやく到着していることに気付いた。
「ありがと」
「・・・裕太」
「ん?」
「いってらっしゃい」
「・・・・・・ん」
俺は今、自分がどんな表情をして答えたのかわからなかった。いつもとあまり変わらない日々なのに、なんだか妙な感じがする。
教室に入ると、またいつものように加納と恵がからんできた。
「遅かったな。どうした?なんか暗いぞ」
「・・・・・・」
「もしかして遅くまで起きてて寝坊したとか?」
「バーカ!裕太に限ってそんなことあるわけないだろ」
「ハハッ、そりゃそうだ」
2人は笑っている。なんで笑っているんだ?何が面白いんだろう。わからなくて眉をひそめながら、俺は2人から離れ、席に着く。
「なんか今日の裕太、おかしくないか?」
「あぁ、そうだよな。なぁ、隼人、お前何か知らないか?」
2人一緒に振り向くと、隼人は首を振りながら答える。
「いや何も。俺より彼方か隆に聞いたほうがいいんじゃないか?」
「なぁ、お前ら何か知ってる?」
3人に聞かれ、彼方と隆は顔を見合わせる。
「話すと裕太、怒るかな?」
「間違いなく怒る。・・・でも、それじゃあこいつらが納得しないか」
ため息を吐き出して唸る2人。が、ジッと粘り強い視線に負け、彼方が口を開いた。
「先週の金曜、あいつ早退しただろ。そのとき、病院に行ったんだよ。・・・前の日に、翔さんが事故にあって」
「は?マジ!それで翔さんはどうなった?」
「一命はとりとめたよ」
「なんだよ、驚かせやがって」
胸を撫で下ろした加納と恵の隣で隼人だけは、顔をしかめた。
「妙にもったいつけるな。さっさと言えよ」
「・・・亡くなったよ」
「・・・今、なんて・・・?」
「亡くなったって言ったんだ。金曜にな。次の日に会ったときにはあぁなってた」
「そっか・・・・・・」
「それにしても、病院ではびっくりしてよな」
「あぁ。裕太が大声出して泣いたのは驚いたよ」
誰もが沈黙する。ようやく立ち直った加納と恵が目を丸くする。
「裕太が泣いた?嘘だろ?」
「裕太が泣くはずないって」
「いや、本当だって!この目で見たんだからな」
「なんにしてもそれだけ悲しかったってことだろ。あんなふうになるんだからさ」
「・・・・・・あぁ」
全員が押し黙る中で隼人だけが頷いた。
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