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Hollow Fung
5
 だが、いつまでも押し問答をする気などさらさらなかった。結局、違和感を頭の隅に押しやり大人しく従うことにした。
 幾分かの警戒心を抱きながら男の後をついていくとガレージのような場所に行き着いた。そこには確かに、装飾の施された、小型ではあるが立派な馬車が用意されていた。どうやら出掛ける予定があるというのは本当だったようだ。使用人が連絡を忘れでもしたのだろうか。
 繋がれている馬に目をやる。こいつもなかなかのものらしい。遠目からでも分かる艶やかな葦毛が管理の良さを証明している。無駄な肉のない引き締まった脚は長距離を移動するのには十分過ぎるほどだ。
 それだけに、違和感を覚えるのは馬車の等級がガレージに対してあまりにも不釣り合いだからだろう。ガレージは冷たい殺風景な壁に囲まれ、有機的な息遣いなど一瞬で掻き消していく。目の前には確かに生物が存在するが、その息吹は微塵も感じられない。色を宿さぬ壁に切り取られ外界とは完全に隔絶している。
 ぼんやりと目の前の違和感を眺めていると、男は馬車の扉を開けて、乗るように促した。言われるままに乗り込むと扉が閉まり、ゴトリと音を立てて動き出した。

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あきゅろす。
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