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Hollow Fung
4
 そうした日々を送っていたある日のことだった。いつも通り山と積まれた専門書から一つを取り出して読んでいると、不意にドアをノックする音が聞こえた。食事ならば先刻摂り終えたばかりだし、清掃の時間でもない。妙だと思いながら本をめくる手を止め、ドアを開けた。
 立っていたのは口髭を蓄えた初老の男だった。見たことない男だ。服装からするとおそらくは使用人なのだろうが。
「何の用だ。」
口から零れ落ちるのは抑揚のない声。感情のない目が男をとらえる。
「お迎えにあがりました。」
男は一言そう告げた。
「迎えだと?出掛ける予定はないはずだ。」
今までただの一度も出てきたことのない単語に妙な違和感を覚えながら返すとなおも男は迎えに来たのだと言う。
「旦那様の命により、お迎えにあがりました。馬車までご案内致します。」
事務的で淡々とした声色。今までの使用人同様の無表情。男から何らかの意図を読み取ることはできない。急な外出の連絡など今までのことを考えればかなり不自然だ。

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