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Hollow Fung
2
不意にドアがノックされる。次いで女のくぐもった声が食事だと告げる。ドアを開けてやると、給仕の女が盆に乗った食事をもって立っていた。女は一切の感情を殺した表情をしている。ここに食事をもって来る使用人達は皆一様にそういった表情をする。食事をもって来る者だけではない。ここに来る世話人は皆同じ表情だ。ひょっとしたら皆人形なのではないかと思うくらいに全員が見事に同じ表情だ。
 食事を受け取ると女はそそくさと帰っていった。よほどここに留まっていたくないらしい。毎度のことだ。彼等は義務だからここに来ているだけで、私に会いにこようなどという殊勝な輩はいない。それ故、この部屋はほとんど音がない。物同士の微かな音以外は、何もない。ただ淡々と己の義務を果たすのみ。
 この殺風景な部屋には何故か無駄に大量の専門書だけは置いてあった。特に何もすることがない私はこれを読みあさるのが日課になっていた。今日取り出したのは哲学の本だった。この本ももう数十回と読み返した。どれほど読んだかわからないその本は大分ぼろぼろになっていたが、まだ十分読める代物だった。
 いつもの通りにページをめくる擦れた音が響く。分厚い本に豪華な装丁。おそらくもとはかなり質が良かったのだろう。年季は入っているが、立派なのには変わりない。他の本も同様だ。膨大な蔵書の全てがやたらと質の高いものだ。いくらこの部屋以外を知らないと言えど、それくらいは直感でわかる。

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