Barcarola de Tramonto
6
最初の目的地に着く頃にはとっくに正午を回っていた。日差しは暖かく目の前の建物を照らしていた。春のそれとは違う、柔らかくもどこか哀愁の漂う太陽は不思議と心がほぐれる。
春が嫌いなわけではない。ただ、今の俺には、春の息吹はひどく不釣合いな気がするのだ。枯れきった俺の心には、春はあまりにも希望に満ち溢れすぎている気がしてならない。
昔の俺がこんなことを聞いたら笑うだろうか。いや、そもそも、どれくらい遡れば今の俺を笑える俺が見つかるのか、実際皆目見当もつかない。
もしかしたら、はじめからこうだったのかもしれない。それくらい、今の俺はすさみきっている。
目の前の建物を見上げる。さすがに聖堂だけあって、かなり大きなものだ。堅牢な石造りの聖堂は威厳と重厚さが具現化したような、そんな雰囲気があった。
俺にとっての聖堂は宗教的な神聖なものというよりはどちらかといえば知的好奇心の対象みたいなものだ。要するに、建築としての意味合いが強いのだ。建築様式に惹かれる俺としては、ヨーロッパの聖堂はぜひとも見ておきたかったのである。
それならば、なぜ建築の道に進まなかったのか。答えは至極単純だった。物理がどうしても肌に合わなかったからだ。それに、建築様式に興味があるといっても、それはあくまで歴史と関連させたものであって、建築そのものとしての側面はあまり重要でもなかったりする。
中に入ると、ひんやりとした空気が辺りを包む。昔の建物だから、空調なんてあるはずもなく、少し寒い。中世の代物と思われるモザイク壁画を眺めながら奥へと進んでいく。
なんでも、ビザンツ帝国時代のものだとかなんだとか。なるほど、言われてみれば確かにそんな感じがしなくもない。俺はうっかり手を触れぬよう気をつけながら壁画を見る。
すべてを見終わって外に出ると、日光が射してきた。薄暗い中に暫く潮来ともあって、目に痛い。外の眩しさに目を細めながら俺は次の目的地へと足を進めた。
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